内容説明
いつから私はひとりでいる時、こんなに眠るようになったのだろう―。植物状態の妻を持つ恋人との恋愛を続ける中で、最愛の親友しおりが死んだ。眠りはどんどん深く長くなり、うめられない淋しさが身にせまる。ぬけられない息苦しさを「夜」に投影し、生きて愛することのせつなさを、その歓びを描いた表題作「白河夜船」の他「夜と夜の旅人」「ある体験」の“眠り三部作”。定本決定版。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
237
表題の如く、「眠り」が描かれる3部作。いずれの作品も若い女性(20代前半)が主人公なのだが、おそらくここで語られる「眠り」は、彼女たちのそれぞれが次のステップに進む前の一種のイニシエーション(通過儀礼)なのだろう。その先は、当人も含めて誰にもわからないのだが。また、よしもとばななの小説は、村上春樹と同じく素材や文体を含めて翻訳にも適しているようで、海外にも広く読者を持つのもよくわかる。2012/04/19
三代目 びあだいまおう
235
「白河夜船」 知ったかぶりをすること、または、ぐっすり眠り込んで、何が起こったか知らないことのたとえ。本作は短編3作、どことなくいけない恋に吸い込まれるように落ちてゆく女たち、それは母性なのか。男の私は経験無いが、儚くも背徳的で、でも傷ついても抜け出せない慈愛的な恋の経験は、優しき女性には多いのかも。生きづらい日常から少し離れられる『眠り』時に私たちの逃げ場となり、ひとときの夢に浸らせ、現実とは違うとても現実的な世界をもたらす『眠り』吉本ばなながいざなう静謐で女性的な世界観は今朝の白銀の景色に似る‼️🙇2019/02/10
風眠
201
(再読)どうしようもない哀しみ、逃れられない苦しみ、忘れたい、それでも忘れられない、疲れきった心。自分では気づかなくても、眠りが体と心を自動的に修復してくれる。堂々巡りの思考から逃れるための眠りも、生きていく上では重要なテクニックだと私は思う。眠れない夜は時間を停止させる。真夜中に静寂の音を聞きながら布団の中にいると、幸せだった過去の事ばかりを考えて、そこから一歩も踏み出せなくなっている自分に気づく。眠りたい、眠れない。そんな時は無理矢理にでも眠る。すると不思議と目覚めた朝は心が軽やかになっているものだ。2017/07/17
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
146
ねむりは死に似ていた。深い夜の底に沈む。とても穏やかで遥かにやさしくて底抜けにゆるされてる感じはなぜか少しかなしい。暑い夏の日射しをクーラーのきいた部屋のなかから眺める。現実感がなくて好き。たゆたう、かんじ。守られていることと隔絶されていることはよく似ていて、逃げることは悪いことじゃないけど逃げつづけることはできない。わかってる、けどもう少しだけ逃げつづけたい。まっしろな船にのって音のない河をゆっくりとくだりたい。その先になにがあるかなんて、きっと今はどうだっていい。2020/12/07
ミカママ
120
久しぶりのばななさん。「白河」の眠ってばかりの主人公、そういや私にも経験あるなぁ、なんて。眠るって、現実逃避には最適の手段なんですよね、お金かからないし。起きているときに脳が得た情報を、うまく取捨選択してくれる、貴重な時間でもあるらしいです。この3編に出てくる主人公たちは、どこか自分に近いようであり、そうでもないようであり。こういう世間的にはちょっとズレた、繊細な女性たちを描かせたら、ばななさんはピカイチ。読者の私たちも、そういう主人公に自己投影してしまうので、彼女の作品に惹かれるんでしょうね。2014/11/24