内容説明
老舗の薬種問屋・鳳仙堂の倅、伊佐次は素行の悪さから、父・利兵衛に勘当され、今は浅草寺裏の賭場を仕切っている。互いに別の道を歩む父子であったが、ある日突然、父の死の知らせが届く。伊佐次は前日に、偶然すれ違ったことを思い出し、目を背けてきた己の人生を見つめなおそうと決意する。静謐な筆致で、市井に生きる人々の心の機微を捉えた、哀歓入り交じる長編時代小説。
著者等紹介
安住洋子[アズミヨウコ]
1958(昭和33)年、兵庫県尼崎市生れ。’99(平成11)年、「しずり雪」で長塚節文学賞短編小説部門大賞を受賞。2004年、中短編集『しずり雪』でデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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はつばあば
37
今月も初読みさんながら素晴らしい安住さんに出会い3冊目。明日が休みだから読めただけでなく、機微、哀愁、後悔による人生への見直しが堪らないほどいい。家族とはいえ心が離れてしまえば他人より冷たい。血が繋がっていればこそ余計に離れてしまう。死なれてから後悔しても遅い。そんな後悔を家族で、兄弟でするんじゃないぞという教え。親子でも似た者同士は結構ケムタイ存在だからなぁ^_^;。この作家さん教えて頂いてありがとうございました<(_ _)>2015/05/01
ひさか
28
波2007年1月号〜2008年1月号掲載のものに加筆修正を行い2008年6月新潮社刊。2010年11月新潮文庫化。疎遠のまま亡くなった父のことを調べる伊佐次は偽薬絡みの事件に巻き込まれて行く。安住ワールドの友五郎親分も登場し、そのサスペンス風な展開に思わず惹き込まれます。自然な会話から感じられる人々の想いがうまく描かれていて、心に残りました。読後、伊佐次の行末が気になりましたが、春告げ坂に登場すると気づいて安心しました。2021/07/31
ドナルド@灯れ松明の火
25
初安住さん。淡々とした始まりで、各話が章であらわされているのも展開がなかなか進まなく感じるのか。しかし、中盤から利一郎の20年後伊佐次と名を変え、賭場を預かるあたりから話は俄然と面白くなる。親子、兄弟の関係から生じる葛藤や想いを捉え、市井の人々の人生を上手に描いている。2015/11/08
ぶんぶん
13
良い話です、親に勘当された息子とその父親、思うところは一緒でも、なかなか上手くいかないものですね。それに文章力が凄い、この人の表現力、使い方、良い文章は選らんで読みたいものですね。この描写の見事さに話の良さが絡みます。ひさびさに江戸情緒に浸りました。2013/09/28
Suu.
7
「春告げ坂」に登場していた伊佐次を主人公に描かれた、切なくも温かい長編時代小説。父子間での歯痒い行き違いが心底切なかった。ありふれた話であり、結末も凡庸だという印象は否めない。それでも伊佐次を支える周囲の人々の優しさ、途切れない絆の力強さがこの作品を盛り上げ、それらを読み手に託していく。生きていればこそ歩み寄れる距離がある。物事はとてもシンプルで、悲しいほど困難だ。最初の一歩を踏み出せる自分に果たしてなれるのだろうかと、様々な想いが去来しながら本を閉じた。2013/09/02
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