内容説明
順風満帆な会社員人生を送ってきた大手食品メーカー役員の芹澤は、三歳で命を落とした妹を哀しみ、結婚もしていない。ある日、芹澤は元部下の鴫原珠美と再会し、関係を持ってしまう。しかし、その情事は彼女が仕掛けた罠だった。自らの運命を変えた珠美と会い続けようとする芹澤。彼女との時間は、諦観していた彼の人生に色をもたらし始める―。喪失を知るすべての人に捧げるレクイエム。
著者等紹介
白石一文[シライシカズフミ]
1958(昭和33)年福岡県生れ。早稲田大学政治経済学部卒業。文藝春秋勤務を経て、2000(平成12)年『一瞬の光』でデビュー。’09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞を、翌’10年には『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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TERU’S本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
491
久しぶりに白石さんの著作で心を揺さぶられた。愛する人が死者となって「いなくなってしまった」世界と、それ以前の世界。子ども持つこちら側と持たないあちら側。どのくだりも、読者の心の襞にすいすい沁み込んでくる。あとがきを読んで驚いた。なんとあのレジェンド編集者(とそのパートナー・白川道さん)へのレクイエムだったとか。読み終えた今、わたしにとって人生の最期に想う「大切な人」は誰なのか、と考えずにはいられない。2020/11/03
じいじ
104
この作品、5年前に単行本で読み、文庫化で再読。白石さんの本は、一筋縄に流し読みさせてくれないのに好きである。本作は、人間の「生と死」をテーマにしているので、195頁の短めにも拘らず時間を要した。親友の死を知らずに生きる方が、これからの人生を有意義に送れるのでは…、とひそかにかに思う主人公。そして、親友を偲びながら一人手酌のビールで献杯するシーンは、私も親友を失ったばかりなので胸にじんと迫った。初読みよりもこの再読の方が、白石哲学を愉しめて面白かった。2020/08/17
takaichiro
89
アラフィフ男が美しい女性の罠にはまり会社を辞めざるを得ない状況に。そんはじまりの作品だが、少しずつ白石さんの死生観が漏れ滲みでる。昔世話になった小学校の担任の様に生きているか、亡くなっているかわからないが、長くお会いしていないという感覚で死をとらえたい。完全な無としてとらえず、ただ目の前に居ないだけだとの白石節。人間の縁をぶつ切りにせず、小川の水が流れ続けるような永遠性を説く。特定の人と一生の関係を結べるかは「定め」みたいなもの。自分の力ではどうにもならない。ただ出会いは無限の可能性でもある。 2019/09/03
とろこ
59
「誰かをどうしようもなく愛したことがある者。大事な存在を喪失したことのある者。そして、子供を持たない者。この三つのどれかに当てはまる人間なら、この小説の顕す人生観とその哲学的メッセージに共鳴しないはずがない」。帯裏面にそう書かれていたので手に取った。私は、三つ全てに当てはまるから。確かに、著者の人生観と哲学は滲み出ていた。全てに共感はできなかったが、そういう思考や主義もありだとは思う。ただ、小説としての魅力には欠けていた。特にラスト。今の私には、解説の文章のほうが素直に心に響いてきた。2020/01/27
タツ フカガワ
55
一流食品メーカーの常務取締役芹澤は50代半ばの独身男。ある日、部下の不祥事をきっかけにその部下の妻珠美の計略にハマり不倫関係に。結果、芹澤はあっさり辞職してしまう。登場人物はみんないい人。彼らの生活は見えてくるが生活臭はゼロ。芹澤と珠美の会話に滑稽味もあれば、親友の訃報に「人の死は誰にも知らせなくていい」という芹澤の人との別れに思う意見にも共感、というなんとも不思議な、それも面白い小説でした。本編と対になるような中瀬ゆかりさんの解説も素晴らしかった。2021/10/30