内容説明
土鍋でつややかに炊きあがったご飯のありがたみ、かき混ぜる両手が決め手の韓国料理の味わい。夜のしじまに、甘やかに漂う出来たてのジャムの香り…。つくるよろこびと食べるよろこび、どちらも大切にできる場所。それが台所。そこでは、いつだって新しい発見と笑顔が満ちている。食材と調理道具への愛情を細やかに描き、私たちの日々の暮らしを潤す、台所をめぐる17のエッセイ。
目次
1 台所でかんがえる(こんなものを食べてきた;漆と別れる、出合う ほか)
2 鍋のなかをのぞく(わたしのだし取り物語;ぴしり、塩かげん ほか)
3 わたしの季節の味(お茶にしましょ;夏はやっぱりカレーです ほか)
4 いっしょでも、ひとりでも(今日は何も食べたくない;ひとりで食べる、誰かと食べる)
著者等紹介
平松洋子[ヒラマツヨウコ]
1958(昭和33)年、倉敷市生れ。東京女子大学卒業。エッセイスト。世界各地に取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆している。著書に『買えない味』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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naoっぴ
73
美味しい食事は心を満たしてくれる。お腹を満たすだけなら何でも食べればいいけれど、心を満たすのは誰かの思いが加わった食事なんだなぁと思う。誰かが手をかけて育てた野菜、旬を慈しむ心、出来上がりを期待して混ぜ合わす手、美味しく見えるようにと盛り付けする気持ち、鍋や器への思い入れ。このエッセイには、料理を楽しんだり美味しくいただくためのエッセンスが詰まっていた。必要だから作っていると思っていた料理は、実は私好みの食材で私が食べたいものを、美味しさを期待しながら作っていることにも気づかされた。幸せなことに2019/08/30
ぶち
69
著者の平松さんは台所のよろこびを見つけるのが本当に上手い人だと思います。台所の灯だけがともる夜更けの静けさの中でジャムを煮る幸福....自分一人だけの秘密めいた幸福....果実の甘い香りが台所に満ちてくるときに感じる幸福感....すごく共感できます。そんな台所仕事のよろこびと食べるよろこびに満ちたエッセイ。食材や調理器具への慈しむかのような想い、食べることの楽しさ、面白さ、美しさを教えてくれています。 日々の暮らしを楽しくする台所のよろこびいっぱいの本です。2018/10/18
たま
60
2008年単行本、2011年文庫。とても中身の濃い本。子ども時代に食べたもの、漆器、酒、果物とジャム、出汁、塩、ごはんの炊き方、韓国の味(生きた蛸に熟成発酵のエイ)、お茶、カレー、麺、蒸し物、炭…対象の深さ広さは勿論だが、平松さんの食への情熱、そのための時間と労力に圧倒される。読むのは面白いが、実際に見習うのはとてもとても。我が家でこんなに各種のお茶やスパイスを揃えても、使い切らないうちにすぐ風味が落ちてしまう。楽しい文章で食べた気分になり、最後の「ひとりで食べる、誰かと食べる」に共感して読了した。2024/04/11
ユメ
60
夜中にジャムを煮る。なんと魅惑的な響き。真夜中という特別な時間、台所の片隅で、小鍋の中のいちごがとろんととろけてゆく。その甘美な香りは、どこか官能的ですらある。翌朝できあがったジャムの別人のような顔つきも心憎い。どきりとさせられた一文は、「食べることはたのしいけれども、つくるのはたのしくなるための滅私奉公にすぎないと思っていた」。けれど、なるほど、つくるたのしみは季節の中にあるのか。十日しかない旬を追いかけていれば年中いきいきしていられる。私も食べることとつくることが少しずつ近づいていくよう、精進しよう。2017/03/23
翔亀
56
料理本とは一線を画す。食べたくない時、台所に立ちたくない時、「ぐっーと地の底にもぐりこんで、このまま冬眠してしまいたい」時にどうするか、という話題が出てくる。動物と同じように、「ただからだを横たえて丸め、傷を癒しながら静かに回復を待つ」のがいいと言うのだ。その後、何を食べれば良いかという話が続くのだが(煮干しを齧るというのは試したい)、主婦の知恵とかかつての食文化を取り戻すとかには留まらない哲学を感じる。食の話題ばかりを日常の些細なことを好き嫌いで軽く書いている風を装いながら食の本質を言い当てている。2015/12/06
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