内容説明
泣ける味、待つ味、吸う味、消える味。食材と調味料の足し算では掬いきれない、新しい味覚が開かれるとき、その裏には流れる四季と人との出会いがある。上機嫌の父がぶら下げた鮨折りで知った心地よく鼻に抜けるわさびの辛み。煮る炒めるのひと手間で、鮮やかに変貌する古漬けたくあんの底力…。時の端々で出会った忘れられない味の記憶に、美しい言葉を重ねた至福の味わい帖。
目次
わたしの味
1 (もうしわけない味;奢った味;熟れた味 ほか)
2 (春先の味;深山の味;雨の味 ほか)
3 (世間の味;選ぶ味;待つ味 ほか)
著者等紹介
平松洋子[ヒラマツヨウコ]
1958(昭和33)年、倉敷市生れ。東京女子大学卒業。エッセイスト。世界各地に取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆している。著書に『買えない味』(Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぶち
128
子どもの頃は嫌いだったのに、大人になると美味しいと思えるようになったものはたくさんあります。野菜や魚が美味しくなり、珍味の味を覚え、日本酒やワインを美味しく飲めるようになりました。大人になるにつれ未知の食べ物との出会いが増えて、新しい食感を楽しめるようになりました。平松さんがご自身の舌で感じた大人の味覚を、様々な食べ物や食事のシチュエーションで紹介してくれています。平松さんご自身の体力と財布の中と時間を削って経験したことを、読者は読むことで未知な味があることを知り、是非とも実際に試してみたいと思うのです。2019/05/17
佐々陽太朗(K.Tsubota)
105
新橋「鮎正」の鮎づくし、「背越し」「うるか茄子」を食べたい。午後四時開店と同時に入る名古屋は広小路伏見角の居酒屋『大甚』で過ごす時間の幸せ、昼下がりに蕎麦屋での暖簾をくぐり、そば味噌、板わさ、焼き海苔あたりをアテに飲むお銚子一本の楽しみ、これぞおとなの味でありましょう。読みたい本もできた。古川緑波の『ロッパの悲食記』、獅子文六の『私の食べ歩き』、小島政二郎の『食いしん坊』、子母沢寛の『味覚極楽』、荻昌弘『大人のままごと』、藤沢周平『海鳴り』もちろん即時発注した。2018/01/03
クプクプ
47
おいしそうという好奇心と食で失敗する恐怖。緊張と弛緩が交互の襲ってくる不思議な読後感。著者は昔は今より職人が多かったと書いているように料理を職人的に見ていると感じました。特に「噛む味」の富士吉田の富士信仰と現在はうどんが流行っているという歴史は著者の取材と視点の鋭さが際だった作品で印象に残りました。他は賭け事が好きだった男性が花を好きになった話や夫婦で入ったお店の料理人が失敗でお店をどう去ったらいいか迷う話などが面白かったです。2019/07/16
ユメ
45
平松さんがひとつひとつ対峙した、62の味。季節の巡り、作り手の覚悟、食べ手の心持ち、様々の要因が重なり合い、味覚は無限に開かれてゆく。私も早くおとなの味がわかるようになりたいものだ。読書が好きでよかったと思うことのひとつに、読む味の妙味を知れたことがある。食べものが人間そのものの味わいに通じるような本を手元に置く心安さを、ライナスの毛布に喩えるのにぴしゃりと膝を打つ。私にとっての安心毛布には、やはり平松さんの本を挙げたい。食べることにまつわる情緒を決して逃さないその筆に、今日もぞっこんなのである。2017/10/09
jahmatsu
22
文章って人柄が出るもんだなと改めて痛感させられたエッセイ集。昼間っから無茶苦茶、酒が飲みたくなる地雷が満載。2018/09/10