内容説明
憲太郎と重蔵はともに自らの人生に穴のような欠落を感じていた。二人は自らの人生を問い直し、これからの生き方を模索すべく、「生きて帰らざる海」を意味するタクラマカン砂漠と「世界最後の桃源郷」といわれるフンザへの旅を企図した。そこに、貴志子と圭輔も加わり、四人の大いなる再生の旅が始まった―。大自然を背景に、魂の歓びに満ちた生を描く、希望と再生の大作完結編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゴンゾウ@新潮部
115
おとなの青春小説だった。なんとなく先が見え始める五十代。ずっしりと感じる焦燥感。こころの中にぽっかりと開いた穴を感じる。憲太郎も重蔵も決して聖人君子のような立派な人間ではない。失敗もすれば狼狽えることもある。何処にでもいる分別のあるおとな。でもこの分別や良識が大切なんだろう。正しいやり方をずっと繰り返す。2016/04/02
KAZOO
87
上巻の最後で、母親に虐待されていた5歳の子供を血のつながらない父親からあずかった主人公と社長がその子供の面倒を見ていきます。社長の実家に連れて行ったりして、徐々にその子供も普通の子供に戻っていく様子が描かれています。その後に、様々な状況がありますが、父親も育児を放棄して主人公が引き取ることを決意し、この三人と陶器店の女性経営者でフンザに旅行することになります。宮本さんの後書きの「学歴や肩書や地位や収入とは関係なく、慈しみの心を持つ、人間力のあるおとなを書きたいと思った。」通りでした。2025/06/06
夜長月🌙新潮部
66
日本から逃げ出すようにパキスタンに向かった4人。何か異国の地に救いを求めるようでもありましたが、外から見た自分の国をそして自分の人生を見つめ直すことになります。何もない草原に置かれた椅子に座るのは自分です。働かされてばかりのこの社会の中で見失いそうになる自分がいますが、自らの人生の中心はまごうことなき自分自身です。「理」ではなく「情」で動く人々の物語でした。2022/04/14
巨峰
52
近い将来に彼らと同じような年齢を迎える私は、彼らほど立派じゃないけれど、それでもこれからの人生のために読んで良かった。次は付箋を着けながら再読しよう。そんな風に思った小説は始めてだ。中原昌也の詩集にも興味でてきました。富樫が大人で魅力的なのは、物事を解決する手段や方法を沢山持っていて、それを出し惜しみせず、鼻につかせないところだと思います。2015/09/05
NAO
51
この物語には、大人になりきれていない身勝手な大人たちや精神的にあまりにも不安定な大人が何人も登場する。遠間憲太郎や富樫重蔵は良識ある大人として描かれているが、それでもときに「魔がさして」妻以外の女性に手を出してしまったりする。良識的な大人である2人の子どもも、幸福とは言えない状況にあったりする。富樫は、「心に穴が空いたみたい」になっているというが、それは、生きることに意義を見いだせなくなってきたからだ。この物語の中で、富樫は何度も「日本はもうダメだ」と言っている。それは、作者自身の思いでもある。2025/06/14