出版社内容情報
宮本 輝[ミヤモト テル]
著・文・その他
内容説明
「一日に五千回ぐらい、死にとうなったり、生きとうなったりする」男との束の間の奇妙な友情(表題作)。トマトを欲しながら死んでいった労務者から預った、一通の手紙の行末(「トマトの話」)。癌と知りながら、毎夜寝る前に眉墨を塗る母親の矜持(「眉墨」)。他に「力」「紫頭巾」「バケツの底」等々、日々の現実の背後から、記憶の深みから、生命の糸を紡ぎだす、名手宮本輝の犀利な「九つの物語」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ろくせい@やまもとかねよし
209
今を過去から捉えようとする9短編が収録。それぞれの過去はどう仕様もないこと。だが、善悪に関わらず今を支えると表現。「トマトの話」の過去はトマトに執着して病死した男性。「眉墨」は死を厭わない母親の生立ち、「力」は初めて登校した小学生の記憶、「五千回の生死」は高価なダンヒルライターの顛末、「アルコール兄弟」は同期の企業組合に入った理由、「復讐」は高校教師からの恥辱を愛おしんだ心情、「バケツの底」は精神を病んだ仕事、「紫頭巾」は北朝鮮帰還を決意した在日朝鮮人、「昆明・円通寺街」は幼なじみの吃音の知らぬ間の回復。2020/06/30
KAZOO
130
宮本さんの短編集です。9つの作品が収められていて、かなり興味を持たせてくれる作品が多いように感じました。日常の出来事のちょっとしたことなどをうまく話に紡いでくれる感じがします。たとえば「トマトの話」などは学生がアルバイトで道路工事を数日間するのですが、そこにいる病人の人物に手紙を託される話です。また表題作は一日に五千回も死にたくなる若い人物との交流の話です。私はかなり楽しめました。2024/10/22
あつひめ
114
この年になったからわかることがたくさんある。わかりすぎるから死ぬことが怖いのかもしれない。生きたい・・・生きている方が辛いことがたくさんある。でも、死んだら辛くないのか?そんな自問自答を繰り返しながら今まできた。今回の短篇集は・・・自分の思いを重ねてしまって苦しくなることが多かった。でも、その苦しさこそが生きている証なのかもしれない。生きることは・・・日々を自らの心に刻みつけることかもしれない。それは痛みを伴うことであるかもしれない。2013/11/15
遥かなる想い
104
宮本輝の長編の質が落ちている中で、本短編集はよい。珠玉の短編集である。2010/05/09
じいじ
85
人間の「生」への夢、力を9つの短篇に託した力作である。表題作は、人間は一文無しになったら、どう考えて、どんな行動をするのだろうか・・・。無一文の主人公は、大阪堺から市内の福島まで徒歩で帰ることになる。途中、「俺は、一日に五千回ぐらい、死にとうなる・・」という奇っ怪な男に遭遇する話。私は「眉墨」が好きだ。慰労で連れて行った70歳の母親が、滞在先の軽井沢で腹痛を起こす。検査で癌と判明。それでも泰然自若とした母親の凛々しさ。「生きるもよし、死ぬもよし」のひと言は物悲しくて重い。奥深い読み応えある宮本小説です。2015/11/04
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