内容説明
高知の芸妓子方屋「松崎」で、揃って修業を積んだ澄子、民江、貞子、妙子。姉妹のように睦みあって育った娘たちも、花柳界に身を投じる時を迎える。男と金が相手の鉄火な稼業を、自らの才覚と意地で凌いでゆく四人に、さらに襲いかかる戦争の嵐―。運命の荒波に揉まれ、いつか明暗を分けてゆくそれぞれの人生を、「松崎」の娘・悦子の目から愛惜をこめて描き、生きることへの瑞々しい希望を呼び起こす傑作連作集。
著者等紹介
宮尾登美子[ミヤオトミコ]
1926(大正15)年、高知市生れ。17歳で結婚、夫と共に満州へ渡り、敗戦。九死に一生の辛苦を経て’46(昭和21)年帰郷。県社会福祉協議会に勤めながら執筆した’62年の「連」で女流新人賞。上京後、九年余を費し’72年に上梓した「櫂」が太宰治賞、’78年の『一絃の琴』により直木賞受賞
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感想・レビュー
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新地学@児童書病発動中
117
初めて宮尾登美子さんの小説を読んだが、非常に好みだった。男性に春をひさぐことを職業にした四人の女性の物語。詩情あふれる文章で、芸妓たちの波乱の人生を浮き彫りにする。貧しさゆえに身を売って、親に尽くそうとする女性の生き方に何とも言えない哀しみを覚えた。三章の貞子のように、ろくでもない父親でも子供が親に感じる愛情は尊いものだ。辛いことばかりではなく喜びもあり、女同士の友情に支えられて、彼女たちが苦界を生き抜く姿は美しい。題の「寒椿」は芸妓たちのことだろう。寒気の中で凛と花開く椿と芸妓たちの人生が重なる。2018/08/15
優希
96
濃いです。花柳界を生き抜いた4人の芸妓の物語。男と金が相手の稼業を意地と才覚で生き抜く姿は、裏で憎しみや悔しさの感情が渦巻きながらも、艶やかで華やかさすら感じさせました。運命の波はそれぞれに降りかかり、苛烈な人生へと明暗を分けるのは、困難という簡単な言葉では片付けられないあり方だと思います。苦しいながらも強い生の執念を見たようでした。重い人生の中にありながらも流麗で果敢に生き抜く力が凄いです。2016/11/01
じいじ
76
主人公は四人の芸妓。それぞれの波乱万丈に満ちた人生が丁寧に綴られています。この小説、読みはじめてすぐに女性らしい細やかな描写力に魅せられました。男性では、とても気が付かない洞察力を感じます。初読みの宮尾登美子でしたが、同年代の作家・有吉佐和子の読み味とは違う魅力を感じました。少々追いかけてみたくなりました。つぎは直木賞作の『一絃の琴』とヒット作『櫂』を候補にしています。2025/06/29
財布にジャック
62
前々から読んでみたいとは思っていましたが、実は宮尾登美子さんの小説は、これが初読みです。情景が頭にすっと思い描ける程、描写が綺麗で巧いので驚きました。そして、静かで淡々とした語りなのに、女ならでは目線で、女性達を丁寧に描いているので、それぞれの芸妓の人生が、こんなに短編なのにも関わらずとても重みのあるものとして伝わってきます。短編なのに長編以上の読み応えを感じました。宮尾さんの長編も是非チャレンジしてみたくなりました。2013/02/12
エドワード
37
宮尾さんの遊郭ものと言えば、「鬼龍院花子の生涯」「陽暉楼」の、豪快でたくましい印象があるが、本作は、貧しさ故に売られた少女たちの懸命に生きる様が静かに描かれる。しっかりものの澄子。斜視で頭の弱い民江。一番の器量良しだが早く死んだ貞子。地味な妙子。親方の娘の悦子。昭和の初めに芸妓子方屋松崎で暮らした五人の少女たち。貧しさの描写がすさまじい。満州へ行かされ、終戦により身一つで逃げ帰る道行きも壮絶だ。激動の昭和を生き抜き、大けがをした澄子の見舞いで再会する四人の今の幸福が救いだ。悦子に宮尾さんの姿を垣間見る。2016/05/02