内容説明
春の宵には、誰もいない台所で冷蔵庫の小さな鳴き声に耳を澄まし、あたたかな冬の日には、暮れに買い置いた蜜柑の「ゆるみ」に気づく。読書、おしゃべり、たまの遠出。日々流れゆく出来事の断片に、思わぬふくよかさを探りあてるやわらかいことばの連なりに、読む歓びが満ちあふれます。ゆるやかにめぐる四季のなか、じんわりしみるおかしみとゆたかに広がる思いを綴る傑作エッセイ集。
目次
台所の闇(台所の闇;シベールの日曜日;青山のえんど豆;まざるまざらない ほか)
なんとなくな日々
平成の蜜柑(平成の蜜柑;春が来る;春の憂鬱;新緑の夢 ほか)
著者等紹介
川上弘美[カワカミヒロミ]
1958(昭和33)年東京都生れ。’94(平成6)年「神様」で第一回パスカル短篇文学新人賞を受賞。’96年「蛇を踏む」で芥川賞、’99年『神様』でドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞、2000年『溺レる』で伊藤整文学賞、女流文学賞、’01年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、’07年『真鶴』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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pino
150
時々、駄々をこねる電化製品たち。そんな事もあるわさ。って気持ちが分る気がしてた。そしたら、川上さんが、実に的確に駄々っ子の心理をひも解いてくれた。「気がした」じゃなく、本当にそうなんだ。しかも、川上さんの言葉は、空気を含んだスポンジケーキのようにふわふわで、優しくて心地よい。でも、困った。読んだ後に、川上ワールドに襲われている。この先、何度、蛍光灯の臨終に立ち会うのか、とか、蕾や蛹を見ても、そこに別の時間が流れていると思うと狼狽してしまう。今なら川上さんを見かけた人の話より、カッパを見た人の話を信じそう。2012/12/07
ヴェネツィア
136
「あとがき」で、小説家になったらエッセイを書かなければいけないので、小説家にはなりたいけれど、なりたくないなんて言っているけれど、なかなかどうして川上弘美はエッセイも上手い。彼女は日頃、「テレビも見ないし、ラジオも聴かない」そうなので、そのことがまた幸いして、時事性の強い題材がないものだから、エッセイの連載後十数年を経た今でも少しも古びてはいない。時には大づかみな性格の著者のおおらかさがうかがえ、また時には極めて繊細なところも見せている。台所の蛍光灯の「そろそろ」という語りに「さよなら」と呼び掛けるのだ。2012/11/13
びす男
98
作者が「なんとなく」な日常をなんとなく綴り、読者がそれをなんとなく読む。平和で幸せな構図だと思う■「鋭い知見やユーモアなんて書ける気がしない」と作者は言う。でも、面白かった。きっと、嫌みがないからだ。文章にお高くとまったところがあれば、内容がいかに画期的でも、決して読み手を楽しませなかっただろう。川上さんのエッセーは力みがなく、鼻につかない文章だった■なんとなく過ごしていても、人はそれなりに感じ、考えているんだな。きちっとした考察よりも、そんなたゆたう思いを文章に収めることの方が、本当は難しいんだと思う。2018/03/08
おくちゃん🌷柳緑花紅
92
[センセイの鞄]と[ニシノユキヒコの恋と冒険]が大好物の川上弘美さん。そして東京日記というエッセイの面白さといったら、そして今回読んだこのエッセイも、裏切らない。何だかほんわり。 自分でも気づかないうちに力が入っていた身体があちこちからすーっと楽になる。「雨の日は匂いだけでなく景色もちょっとやわらかい」素敵だ。そして一番のツボは夜中の古本屋。仕事の資料を探しに行ったのに、ここまで書いただけで、もう思い出し笑い。楽しい読書時間でした。2016/04/20
コットン
87
なんとなくな日々の中にも何かある川上さんの日常。「ディズニーランドへいってコーヒーカップやメリーゴーランドばかり乗ったり」「憂鬱な気分だったのが、小学生の少年との世間話で目を見開かされたり」と、ゆるーく独自の視点が心地いいエッセイ。2013/12/16
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