内容説明
「国民作家」司馬遼太郎―数多の作品で魅力的な群像と、情感溢れる風景を描き、「竜馬がゆく」「坂の上の雲」「燃えよ剣」「菜の花の沖」「街道をゆく」など、その類まれな歴史観に裏打ちされた物語は、今なお多くの読者を魅了してやまない。司馬遼太郎賞受賞者でもある著者が、司馬氏と親しく交わった日々を紹介しながら、登場人物や舞台に込められた司馬文学の秘密を読み解く。
目次
はじめに―司馬遼太郎と「もう一つの日本」
第1部 司馬文学の主人公たち(懐しいひと―出会いの記憶;坂本竜馬―自由なる精神 ほか)
第2部 土地の記憶『街道をゆく』(梼原街道;湖西のみち ほか)
第3部 文明批評による反省(『この国のかたち』)
懐しい、懐しい人―あとがきにかえて
著者等紹介
松本健一[マツモトケンイチ]
1946(昭和21)年群馬県生れ。作家、評論家。東京大学経済学部卒。現在、麗澤大学教授。評論、評伝、小説など多方面で執筆する。『評伝 北一輝』等で、2005(平成17)年度の司馬遼太郎賞と毎日出版文化賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
魔魔男爵
7
本書のベストセリフ「軍隊は古来、いかに正義をとなえても軍隊そのものを守るという論理しか持たず、かれらが『死守』しようと呼号するその土地の住民の生存と安寧を守るものでは決してない」これ一冊で司馬さんの御本を31冊読んだ振り出来るお値打ちな本(本末転倒w)。が、ベスト31に「項羽と劉邦」が入ってないのは解せんぞ!松本氏は右も左も超越していると思っていたが、扶桑社の歴史教科書に自分の文が採用されたと自慢げに書いてるから、実は下衆な右翼だったかw。司馬さんの本のネタだけにすれば良かったのに自分の本の宣伝は逆効果w2009/10/15
うえ
4
勝海舟、福沢、小栗上野介を三人のファーザーズとした司馬。著者は勝への評価を「幕府よりも「日本国」を選んだから」とする。「明治政府が目ざそうとしていた国家構想は、近代西欧ふうの「国民国家」であった。しかし、幕末・維新期の日本にはまだ、その国民国家(ネーション・ステート)を支えるべき「国民」という言葉それじたいさえなかった。このとき、最初に「日本国」という視座を手に入れ、国民意識に目ざめたのは、わたしの考えによれば佐久間象山であり、司馬遼太郎の考えによれば勝海舟であった。」2024/10/07
らっそ
4
気になる一文:元寇の時に吹いた風を「神風」と呼ぶようになったのは、実は昭和九年からなのです/小説というものの面白さは、わたしも小説を書いて思い知ったのであるが、自らの美学をうたいつつも、同時に小説の別の登場人物を通して、その自らの美学に対する自己批判が容易にできるところにあるようにおもわれる2010/02/20
ダイキ
2
「近代の「私有」概念が定着してから、いや、より正確にいえば、一九六〇年代半ばからの高度経済成長によって日本が農村型社会から都市型社会に移り、大衆消費社会が出現して浪費が美徳とされるような風潮が生まれてから、バブル期には土地が全く"売るためのもの"に化した。こういう、土地を商業価値とのみ見る戦後日本の風潮に対して、司馬は土地を日本人の精神的風土と捉え、日本文化を育んできた共同体の物語りにおいて語ろうとした。それが、簡単にいえば、司馬さんの『街道をゆく』全体をつらぬく無意識的なモチーフである。」〈檮原街道〉2018/11/28
国木田
2
司馬遼太郎という人の功績を感じさせる紹介本。その幅広い創作活動の一端を紹介しつつ、彼の人物像や歴史観にも迫って行く。司馬遼太郎の“物語り小説”は、ただ単にエンターテインメントを求めるのでなく、歴史的事実のみに忠実であろうともしない、理性と気概の絶妙のバランスの視座の上に立っている。2010/01/24