内容説明
藩の勘定方を退いてはや五年、孫左衛門もあと二年で還暦を迎える。城下の寺にたつ欅の大木に心ひかれた彼は、見あげるたびにわが身を重ね合せ、平穏であるべき老境の日々を想い描いていた。ところが…。舞台は東北の小藩、著者が数々の物語を紡ぎだしてきた、かの海坂。澹々としたなかに気迫あり、滑稽味もある練達の筆がとらえた人の世の哀歓。藤沢周平最晩年の境地を伝える三篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
165
藤沢周平の晩年に書かれた短篇を3篇収録。いずれも愛読者にはお馴染みの海坂藩を舞台にしたもの。作家の晩年の作だからか、2篇までは隠居老人を主人公にしたもの。いずれも、いわば枯淡の味わいがあるが、白眉はやはり表題作だろう。欅の大木をシンボルとし、またメタファーとして、主人公孫左衛門の人生の決算とその最後のヤマを見事に、しかも淡々と描き出している。他の2篇も含めて藤沢周平の世界を、いわば回顧するかのような短篇小説群だ。2013/10/18
やま
133
静かな木 2015.09発行。字の大きさは…小。 岡安家の犬、静かな木、偉丈夫、海坂藩の地図の短編4話。 「岡安家の犬」海坂藩の岡安甚之丞は、仲間と犬鍋を食べていたら、野地金之助は、この赤犬は俺が甚之丞が可愛がっている愛犬のアカを捕まえて料理したのだと言う。甚之丞は、あまりのことに激怒して絶交し、妹・八寿との縁談を断る。 始め犬を煮て食べる犬鍋には、ビックリしました。金之助が、甚之丞を怒らして甚之丞の妹・八寿との縁談が壊れてからの動きが、滑稽で笑いを誘います。 2021/01/14
ケンイチミズバ
128
えっ、犬鍋?犬鍋?道場仲間によばれて美味い美味いと食した甚之承。おい、これお前んちのアカだぞ。言われて嘔吐し激怒、今すぐ刀を抜いて立ち会えとなる。その場はどうにか収まるも藩でも知られた美貌の甚之承の妹、その実兄を怒らせていまい、金之助と彼女との縁談は取り消しに。がしかし、反省の色を猛アピールするためどこかで似たような犬を見つけて来て岡安家の周りをぐるぐる回る金之助。それを見た妹はついに吹き出す。いたずらにもほどがあるが、何かの故事成語からの引用だろうか。ラストのユーモアがなんともな作品。藤沢周平最高!2020/03/09
takaichiro
117
藤沢周平、最晩年の3短編集。超ベテランの筆捌き。冗長な表現は無く、それでいて絶妙な伏線がここかしこに。アスリートの肉体にうっすら脂肪が乗る様な理想的なバランス感。本を目で眺めているだけで、頭に映像が浮かぶ筆力。「偉丈夫」が好み。片桐権兵衛は「馬の様な体躯に蚤の心臓を備える小心者」だが本藩との境界争いの掛合い役に。妻の三枝は口下手の夫に「何も言わずじっと座っていろ」と伝えるも、言葉少な乍ら「一戦を構える覚悟あり」と堂々と発言し、交渉を終える権兵衛。俸禄を受けるが、やはり寡黙な権兵衛。日本の伝統的な英雄像。2020/01/31
kinkin
95
三つの短編集。本の裏にも書かれていたが人の世の哀歓が詰まっていると思う。そしてこの短編はどれも歓の部分が多いのではないか。橋や川といったシリーズにはどうしようもない「哀」が書かれた作品もありそれはそれでいい。しかしこの本の主人公からは「歓」が伝わってくる。藤沢周平作品はなぜこうも気持ちを落ち着かせてくれるのか。普段は音楽を聴きながらのながら読みだが、「偉丈夫」以外は深夜静まりかえった頃に音楽なしで読んだ。静かに本を読むということが藤沢周平作品がとても合うことに気づいた。他の作品も同様に再読したい。2015/09/16
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