出版社内容情報
村の難事を祈祷で収める、心優しき剛の者。山形・荘内地方の修験者の活躍を描く異色時代長編。
白装束に高足駄、髭面で好色そうな大男が、羽黒山からやって来た。はじめ彼は村びとから危険視され、うさん臭く思われていたが、子供の命を救ったり、娘の病気を直したりするうち、次第に畏怖と尊敬の眼差を集めるようになった……。年若い里山伏と村びとの織りなすユーモラスでエロティックな人間模様のうちに、著者の郷里山形県荘内地方に伝わる習俗を小説化した異色の時代長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
120
庄内の村で起きる様々な事柄を山伏大鷲坊が解決する連作短編集。庄内弁が優しく響く。私も東北の人間なので地元の方言に似た言葉もちらほら。藤沢周平さんの作品では珍しい山伏が主人公で興味深い。山形では出羽三山から山伏が神社に派遣され村に常駐していたと初めて知る。最終話は拐かしなのだが、漂泊の民であるサンカが登場する。奥山に住み農村の箕繕い等を行っていた民。戦後には山から降り、徐々に市民に同化。現在はサンカと呼ばれた民はいない。藤沢周平さんの作品でもサンカの描写は初見だった。本作も人情と暖かみあり読後感が実に良い。2021/12/18
じいじ
120
読み始めてすぐに「帯状疱疹」という厄介な病に罹ってしまい、右側頭の激痛と闘いながらの苦しい読了になった。さて、連作短篇の本作は、これまで読んだ藤沢作品とひと味趣が違った物語だ。江戸後期、著者の故郷荘内の山伏と村民の日常を丁寧に描いた地味だけど秀作。相変わらずの情景描写が素晴らしく農村や山野の風景が目に浮かんできます。とりわけ、最終の【人攫い】は、圧巻の読み心地です。所々で描かれるエロチックな描写には、ほっこりとした気持ちに…、藤沢さんの暖かいぬくもりを感じます。体調を整えて、一気に読み直したい一冊。2018/06/09
ぶち
119
イベント[海坂藩城下町 第7回読書の集い] のレビューを拝見して、たいへん読みたくなった本です。 羽黒山で修行した山伏が"里山伏"として江戸期の山村の里で暮らす様子が、興味深く面白いのです。村には泥棒騒ぎやら子供攫いやら狐憑きやら、様々な出来事が起きます。それを山伏が祈祷や智慧を駆使して解決していくのです。その過程も解決後の結末も快いものなので、読んでいて気持ちが明るくなっていきます。 登場人物たちの会話はすべて庄内弁で、それもまた趣があって面白いのです。2022/01/12
ふじさん
90
作家が愛してやまない故郷・庄内の人々の江戸時代のくらしが、ある郷愁を持って庄内地方の方言で語られている。そこには、素朴で勤勉で思いやりのある農民の心が描かれている。年若い山伏と村人の織りなすユーモアでエロティックな人間模様と庄内地方に伝わる習俗と絡めて描いた異色の時代小説。 2021/04/18
さつき
84
山形庄内地方の山里を舞台に、羽黒から来た山伏大鷲坊を中心に普通の人々の生活を描く。頭痛や腹痛など体調不良の治療から住民同士の揉め事の仲裁まで様々な事をこなす山伏のような存在は、現代ではなかなか無いもの。狭い地縁の中で生きるのは不自由さもあっただろうけど、それ以上に人と人との繋がりは濃かったのでしょう。大鷲坊の温かな人柄が慕わしく楽しい読書でした。2024/01/06