内容説明
敗戦、シベリア抑留、賠償ビジネス、防衛庁商戦、中曽根政権誕生…。元大本営参謀・瀬島龍三の足跡はそのまま、謎に包まれた戦中・戦後の裏面史と重なる。エリート参謀は、どのように無謀な戦争に突っ走っていったのか。なぜ戦後によみがえり、政界の「影のキーマン」となりえたのか。幅広い関係者への取材により、日本現代史の暗部に迫ったノンフィクション。日本推理作家協会賞受賞。
目次
第1章 戦後賠償のからくり
第2章 参謀本部作戦課
第3章 天皇の軍隊
第4章 スターリンの虜囚たち
第5章 よみがえる参謀たち
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
212
山崎豊子『不毛地帯』のモデルと言われ、 元エリート参謀、そして昭和の影のドンと呼ばれた男の実態に 迫った本。 経歴を見ると、元大本営参謀、敗戦、シベリア抑留から 伊藤忠商事での活躍、中曽根政権誕生など ドラマを 地でいく生き方をしながら、決して 自ら語ることの なかった人生とは何だったのか。 実名で生々しいが、でも結局謎は謎のままだった・・ 優秀なゆえに毀誉褒貶の多い瀬島龍三そのままの 本だった。文体は迫力があり、緊迫感がある。2014/06/07
hatayan
52
1999年刊。大本営参謀から歴代首相の指南役にまで登りつめた瀬島龍三を軸に、開戦前夜の大本営、戦後の賠償ビジネスの舞台裏など知られざる裏面史をまとめた記録。 「総理なんて忙しくて時間がないから、簡単にまとめた書類を出せばよい。」陸軍きっての切れ者とされた瀬島は、会議の流れを簡潔かつ的確にまとめる能力に優れ上官の信頼を得ていました。「自分は中曽根(元首相)ごときのブレーンではなく、国家百年のためにやっている。」本書では、天皇に成り代わって作戦命令を起案した瀬島の強烈な自意識をあぶり出すことに成功しています。2019/10/07
Willie the Wildcat
34
忠誠。戦前は国家、戦後は伊藤忠・・・。先見性、行動力で道を開く。シベリア抑留時も慌てず、騒がず、時勢を見極める。一方、東京裁判での証言、戦後賠償を通した財界海外進出などにおける瀬島氏の関わりの詳細情報に欠けるため、是非の考察が難しい。印象的なのが、「先の大戦が自存自衛か侵略か」の瀬島氏の見解。当時の時勢・陸軍参謀という役割を踏まえたものかと推察。アジア2000万人、日本300万人の死者。(発言の前後脈略がないので判断が難しいが)これらの数字に感ずるところは如何に・・・。2014/03/14
高橋 橘苑
30
解説の船戸与一の言葉が重い。「アジア諸国二千万の死。日本人の三百万の死。これについて瀬島龍三の真摯な発言は聞かれない。要するに、この膨大な死者数については彼のこころに触れることがないのだろう。徹底したプラグマチストにとって数字はただの数字だ」 戦前は忠君愛国、戦後は民主主義、そして経済至上主義。その時代、その場の空気に責任が転嫁できるというなら、時代に盲従する薄っぺらい権威主義でしかないだろう。シベリア天皇を出現させた、日本人の心の中に、瀬島龍三的なるものを許容してしまう体質があることを忘れてはならない。2016/12/12
kochi
23
19××年、某国の大統領が来日した折、補償ビジネスに関係の深い商社社長の指示で、赤坂のクラブのホステスAは、滞在するホテルに送り込まれた… 優秀な成績で陸軍大学を卒業し、参謀本部勤務後、関東軍参謀として満州で終戦を迎え、シベリア抑留10年の後に帰国した瀬島龍三は、伊藤忠商事で人脈を生かし、戦後の賠償ビジネスで名をあげる。児玉誉士夫との人脈から金丸信や中曽根とも深くつながり、政財界にその影響力を行使したという。いろいろなことが闇の中で決まっていた時代、一見関係なさそうなAさんも時代の犠牲者の一人ではないか?2021/04/11