出版社内容情報
一枚の百円紙幣が語り手となり、闇屋、陸軍大尉などを転々としながら見た欲と情の光景を綴る太宰治「貨幣」。会社の命令で闇食糧の調達に奔走し、その最中に逮捕された朝鮮人の悲惨な運命を描く鄭承博「裸の捕虜」。平凡な会社員が電車内での突発事から闇屋として生き抜くことに目覚める梅崎春生「蜆」──終戦時の日本人に不可欠だった違法空間・闇市。その異様な魅力を伝える名短篇11作を収録。
マイク・モラスキー[マイク モラスキー]
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内容説明
一枚の百円紙幣が語り手となり、闇屋、陸軍大尉などを転々としながら見た欲と情の光景を綴る太宰治「貨幣」。会社の命令で闇食糧の調達に奔走し、その最中に逮捕された朝鮮人の悲惨な運命を描く鄭承博「裸の捕虜」。平凡な会社員が電車内での突発事から闇屋として生き抜くことに目覚める梅崎春生「蜆」―終戦時の日本人に不可欠だった違法空間・闇市。その異様な魅力を伝える名短篇11作を収録。
著者等紹介
モラスキー,マイク[モラスキー,マイク] [Molasky,Michael]
1956年、米国セントルイス市生れ。シカゴ大学大学院東アジア言語文明学研究科博士課程修了(日本文学で博士号)。ミネソタ大学、一橋大学教授を歴任、現在は早稲田大学国際教養学部教授。日本の戦後文化およびジャズ音楽を主に研究。落語、将棋、居酒屋などの日本文化に造詣が深い(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
88
闇市をテーマとしてアンソロジー。編者がアメリカ人というのも驚く。収められた11編は、他では読めないものという編者の言葉通り、初めて読むものばかり。非合法ゆえに、自由で猥雑でアナーキー。戦中には押し込められていたエネルギーが、カオスとなって渦巻く世界。そこに生きる人間の生々しさ。圧倒される。戦火をくぐりぬけてきた100円札(!)が自らの経験を語る太宰治の「貨幣」、少佐の妻であることから解放されたくましく生きる女性を描く中里恒子の「蝶々」などが印象に残る。1篇ごとに丁寧な解説つきなのが嬉しい。2021/11/30
青蓮
88
戦中戦後にかけて存在していた違法の市場、闇市に纏わる11作品を収録。混沌とした闇市には何をしてでも生き延びようとする人の逞しさや強かさ、時には隣人愛的な情すら垣間見える。実体験であろうとされる、朝鮮人の悲惨な運命を描く鄭承博の「裸の捕虜」、戦死した父の幻想を抱きながら男娼と化し、母親との近親姦で内なる父親像を打ち砕かれる野坂昭如の「浣腸とマリア」、何が正常で何が異常なのか混乱した時代を反映するようなキャラクターが登場する坂口安吾の「日月様」。どの作品も短いながらとても密度が濃く、面白いテーマのアンソロジー2019/08/07
tomi
37
戦争末期から終戦直後の闇市にまつわる短編11編を収録。太宰治、坂口安吾、織田作之助、野坂昭如といった豪華な顔ぶれ。編者(マイク・モラスキー氏)が基準のひとつに知名度の低い作品を優先と挙げているように、マイナーな作品が並ぶ(耕治人「軍事法廷」など全集にも未収録だという)。中でも印象的な一作は鄭承博「裸の捕虜」。理不尽な理由で捕らえられ、山奥の収容所に送られた朝鮮人の青年の眼で、中国人たちが苛酷な強制労働をさせられている収容所の様子が淡々と、しかし鮮烈に描かれている。2018/10/03
るい
30
闇市にまつわる3つのテーマから作者のちがう11編の物語。 その時代に描き、世の中にあまり出回っていない物語をセレクトしたと書いてあった。 読みにくいものもいくつかあったけれど、戦前戦後の時代をより濃く描いてあってすごく面白かった! ちょっと怖い表紙に負けずに読んでよかった(笑)2018/12/19
JKD
25
戦後の激動期を象徴する闇市。この本に出てくる闇市のくだりはどれも決して美化することなく胡散臭いまま生々しく語られていた。こういう混沌としたエネルギッシュな異空間ともいえる独特の世界を逆に新鮮と捉え、好奇心と恐怖感を織り交ぜながら読ませてくれる本書は「もの凄い本」でした。2018/10/03