内容説明
太平洋戦争中、南方戦線で負傷した一等兵の私は、激戦の島に建つ臨時第三野戦病院に収容された。最前線に開いた空白のような日々。私は、現地民から不足する食料の調達を試み、病死した戦友眞田の指の骨を形見に預かる。そのうち攻勢に転じた敵軍は軍事拠点を次々奪還し、私も病院からの退避を余儀なくされる。「野火」から六十余年、忘れられた戦場の狂気と哀しみを再び呼びさます衝撃作。
著者等紹介
高橋弘希[タカハシヒロキ]
1979(昭和54)年12月8日、青森県生れ。2014(平成26)年、「指の骨」で新潮新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Willie the Wildcat
84
証。生きた証、死んだ証、そしてヒトの証。問いかけるのが、2つの転機。理性、そして本能。前者は、被弾し意識を失った瞬間と、野戦病院の"匂い”が変わった瞬間。後者は、軍医の手が齎した歪んだ自分の顔と、指を焼き涙が欲望に変わる心。理性が「死」、本能が「生」を暗喩。 故のヒトの証である。そして、物理的な証が表題。同様の視点は、死の恐れ、死の覚悟が、目の前の現実に直面することで、死という概念が 消失する件でも感じた。最後に”通った”道の色。意味深。因みに、資生堂の練り歯磨粉ってイメージできないなぁ。 2019/04/18
菜穂子
63
野戦病院で次々に死んでいく仲間たち。亡骸から指を切って家族の元へ持ち帰ることが生き残ったものの役割りと心に定める。これが戦争なのだろうか?彼等をこんな目にあわせているのは誰なんだ!そこにいない人達。自分たちは安全な場所にいて綺麗な服を着て食べ物もしっかり食べている人達。こんな目にあって、こんな思いをしていたとは生きて帰ったとしても軽々しく口にできなかっただろう。 2018/09/24
いっち
53
戦争を体験していない著者が描く、想像力豊かな作品。舞台は赤道より南の半島。戦争で負傷した主人公は、野戦病院に送られる。そこにいるのは、片足のない兵士、マラリアで衰弱した兵士、顔中に包帯を巻いた兵士など。戦場から少し離れた場所で、兵士は飢餓やマラリア、風土病で死んでいく。死んだ兵士の指は切られ、焼かれ、指の骨だけが日本の遺族に送られる。悲壮感だけが漂うわけではない。原住民の暮らす村に行って交流したり、切り株を引っこ抜き将棋盤を作ったりと、ひと時のやすらぎを感じられる。だが死は徐々に、確かにやってくる。傑作。2020/06/13
かみぶくろ
47
4.1/5.0 戦争を知らない世代が描く戦争小説。淡々とした、どこか詩情も感じられる文章で綴られる凄惨な戦争の現実。生と死が隣り合わせの世界の、ぼんやりとした絶望と諦念。積み上げるのではなく切り出していくような、鋭い想像力による意義ある作品だと思う。2024/02/24
JKD
41
物語というより、日記みたいな感じ。仲間が次々に死んでいき、道端には朽ち果てた兵士の死体。まさに戦場の狂気。戦闘シーンは全くないが、これこそ戦争だという意味がヒシヒシ伝わりました。2017/08/27