出版社内容情報
憂鬱な不採用通知、幼い娘を抱える母子家庭、契約社員の葛藤……。うまく喋れなくても否定されても、僕は耳を澄ませていたい――地球の中心に静かに降り積もる銀色の雪に。深海に響くザトウクジラの歌に。磁場を見ているハトの目に。珪藻の精緻で完璧な美しさに。高度一万メートルに吹き続ける偏西風の永遠に。表題作の他「海へ還る日」「アルノーと檸檬」「玻璃を拾う」「十万年の西風」の五編。
内容説明
憂鬱な不採用通知、幼い娘を抱える母子家庭、契約社員の葛藤…。うまく喋れなくても否定されても、僕は耳を澄ませていたい―地球の中心に静かに降り積もる銀色の雪に。深海に響くザトウクジラの歌に。磁場を見ているハトの目に。珪藻の精緻で完璧な美しさに。高度一万メートルに吹き続ける偏西風の永遠に。表題作の他、「海へ還る日」「アルノーと檸檬」「玻璃を拾う」「十万年の西風」の五編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
372
5つの作品からなる短篇集。地球の中心にある核、クジラ、鳩、珪藻、ジェット気流をそれぞれの題材として展開する物語。同様の短篇集『月まで三キロ』にしてもそうだが、伊与原新の描く世界は、そうした物語の核となる部分の目新しさが目立つが、実は作家の人間観察の確かさ、そして誰もが本質的に持っている人間存在としての哀しさをこそが描かれている。それは、実にさりげなく潜ませるような方法で。そして、それを支えるのが優しさに満ちた彼の文体にほかならない。さらに言えば、人間の持つ哀しさや儚さは、そうした悠久のものと対峙した時に⇒2025/04/07
しんたろー
137
5つの物語が収録された短編集…何かしら人生に躓いている主人公たちが、ある科学的な知識を得ることによって、少し前向きになるストーリー…こう書くと「形式的な感じがして面白くなさそう」と思われそうだが、決してそんな事はない。各話の雰囲気が違うし、扱われる科学的な題材が「そうなんだ!」と思えるのが楽しい。そして、人情が巧く織り込まれていて、シンミリしたりホッコリしたりと共感できるのが良い。どの話も好きだが、原発問題を改めて考えさせられた『十万年の西風』は、知らなかった戦中の「風船爆弾」まで描いていて奥深く感じた。2024/09/30
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
106
(2023-101)理系の彼の書く作品はどれも理系テイストで科学の蘊蓄が所々にある。この短篇集もそうだ。地震やクジラの歌にレース鳩、珪藻…。けれども彼が描くのは人の心であり、優しさだ。主人公はコミュ障の大学生やシングルマザーなどちょっと生き方に戸惑っている人達。表題作「八月の銀の雪」では就活に疲れた不器用な大学生に向かってベトナム留学生のグエンが優しい言葉で励ます。派手さはないけれど、良い小説でした。珪藻アートの美しさを初めて知りました。★★★★2023/09/08
Kazuko Ohta
101
凄く良かったかと聞かれるとそうでもなかった気がするのに、妙な心地良さが残ります。ぎすぎすした世の中で、自分の思うようには事が運ばず、ふて腐れているところを人に見せたりはしないけれど、鬱々とした気持ちで毎日を過ごしている主人公たち。でも意外とまわりには幸せな瞬間が落ちていて、それを拾えば前向きになれるかもしれない。少なくとも、嫌いだった自分のことが好きになれそうに思います。どの話も好きでしたが、『アルノーと檸檬』が心に残りました。伝書鳩に詳しくなり、苦手だった鳩の見方が180度変わる。愛らしくすら感じます。2023/12/25
shinchan
90
伊与原新さん、2作品目。実に面白い内容でした〜。なんだろうねー、いいなー、すべてが興味深く、何とも言えない後味。まだまだ色々と読んでみようと思いますね。楽しみだー♪♪♪♪♪ しかし、珪藻アートにはビックリ‼️2023/09/23