内容説明
私は夫と離婚をする。そのことを両親に報告せねばならない。実家へ向かう路線バスのなかで、老人たちがさかんに言い交わす「うらぎゅう」。聞き覚えのない単語だったが、父も母も祖父もそれをよく知っているようだ―。彼岸花。どじょう。クモ。娘。蟹。ささやかな日常が不条理をまといながら変形するとき、私の輪郭もまた揺らぎ始める。自然と人間の不可思議が混然一体となって現れる15編。
著者等紹介
小山田浩子[オヤマダヒロコ]
1983年広島県生れ。2010年「工場」で新潮新人賞受賞。’13年『工場』で織田作之助賞受賞。’14年「穴」で芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
108
☆5.0 部屋のカーテンを開けると家守が白い腹を向けて窓にピタリと吸い付いていた。 それを見た瞬間の背筋を走る“薄ら寒さ”と言いましょうか。 そんな薄ら寒い短篇15篇がぞろぞろと庭で戯けてスキップしてる。 その様はある意味、それはそれで“キモ可愛い”かもな、と。 怖いもの見たさが徐々に膨らむ妙な毒をもった短篇集です。 2021/01/24
(C17H26O4)
83
読むにつれ『庭』というタイトルがどんどん気味悪く思えてくる。得体の知れない出来事が自分の身近な領域で起こっているような感じがするからかも知れない。見させられてしまった身内の念もコワイし、何かを象徴しているかのような蟻やらクモやらやもりやら様々な生き物もコワイ。ぬるんと空気に溶け込んでくるみたいなところも、気がついたら当たり前のようにほら、そこにいるところも。それらの登場の仕方や存在の仕方、絶妙に見え隠れする悪意の塩梅もなんともいえず気持ちが悪い。怪談というのとは違うけれど、ぞわぞわぞわっとなりました。2021/08/05
k5
67
小山田浩子さんは安部公房やカフカに匹敵する作家だと思ってます。『穴』や『工場』は日常と不条理のバランスが絶妙で、気づかないうちに深みにはまる感覚が快感だったのですが、この短篇集はちょっと読むのが難しかったかも。かなり一品一品、構えて読まないと噛み砕けないですね。もっと時間があるときに読めばよかった。2021/02/28
優希
49
安定した不穏の空気を感じました。堕ちるところまで堕ちる感覚が心地良かったです。2022/09/26
田氏
23
何か起こってはいるのだけど、何も起こらない。というのは、それが現実からは一歩か半歩ほど逸脱してはいても、物語として歩き出しもしないからだ。物語は、何かが解決したり結末を迎えたりして、感動や教訓を生成することをレギュラーとする構造である。ところが、この短編集で起きている数々の事態は、反復的日常からすればどう考えてもイレギュラーなのに、物語にとってもまたイレギュラーなのだ。日常にも非日常にも属さない事態は「不穏」を感じさせる。不穏でぞわぞわするものの集合体、それはきっと、虫や草や生き物で満ちた、庭に似ている。2022/12/02