出版社内容情報
大河が南北を隔てる巨大工場は、ひとつの街に匹敵する規模をもち、環境に順応した固有動物さえ生息する。ここで牛山佳子は書類廃棄に励み、佳子の兄は雑多な書類に赤字を施し、古笛青年は屋上緑化に相応しいコケを探す。しかし、精励するほどに謎はきざす。この仕事はなぜ必要なのか……。緻密に描き出される職場に、夢想のような日常が浮かぶ表題作ほか 2 作。新潮新人賞、織田作之助賞受賞。
小山田 浩子[オヤマダ ヒロコ]
著・文・その他
内容説明
大河が南北を隔てる巨大工場は、ひとつの街に匹敵する規模をもち、環境に順応した固有動物さえ生息する。ここで牛山佳子は書類廃棄に励み、佳子の兄は雑多な書類に赤字を施し、古笛青年は屋上緑化に相応しいコケを探す。しかし、精励するほどに謎はきざす。この仕事はなぜ必要なのか…。緻密に描き出される職場に、夢想のような日常が浮かぶ表題作ほか2作。新潮新人賞、織田作之助賞受賞。
著者等紹介
小山田浩子[オヤマダヒロコ]
1983年広島県生れ。2010年「工場」で新潮新人賞受賞。’13年『工場』で織田作之助賞受賞。’14年「穴」で芥川賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
395
表題作「工場」は、私もまさに「ライトなカフカ」という感覚の小説かと思うが、解説を書いている金井美恵子氏は「よくある着想や設定!」と幾分否定的である。たしかにそれは前世紀的なカフカ的世界とは大いに違ってもいるだろう。そこには出口のない暗鬱な切迫感は見られないし、主人公たちが置かれている状況は究極の孤独でもない。しかし、一方で彼らは同時に「ライトなカミュ」の世界に置かれてもいる。すなわち、「シーシュポスの神話」的無力感がそれである。しかも、彼ら3人は等しくそのことには気が付かない。そうしたところはまさに⇒2020/08/23
(C17H26O4)
77
人も場所も出来事も全てが平板に描かれている上に視点が行きつ戻りつする。登場人物たちの輪郭はあやふやだ。成り行きや状況に対し不思議さを感じつつも、彼らが特段不満を抱きもせず、ただ受け入れている、というのが気味が悪く不快だ。感情が見えてこないのだ。周囲のことばかり細かに分析している目線も気に触る。彼らの引け目や負い目が理由と言えなくもないのだが。『いこぼれのむし』の奈良さんだけが像を結ぶ。彼女の笑いが際立つ。「私はうつ病だと思われていたのか!」可哀そうな奈良さんだと思われていたのか、と笑い会社を辞める場面。2022/06/11
佐島楓
77
この日本で非正規として働くということ。小説というフィルターを通しているのでふわっとしているところもあるが、傷つき傷つけられながら生きていくひとびとの姿が見ていて苦しかった。2018/09/06
かぷち
67
敷地内に大概の物はある巨大な工場に務めることになった3人。正体の分からない不気味な感じが終始つきまとう工場で何のためになるのか分からない仕事を延々と続けることに。これは不条理劇か、それとも何かの風刺?よく分からないけど一つ言えるのは、何か大きな機械の部品にでもなってしまったかのような虚無感というか、それでいてどこか歯車が合わない違和感というか、なんとなく不穏なんですよ。何かが起きるわけでもなく、かと言って何も起きないということでもない。独創的な世界観に引きずり込まれる。癖になりそう。2024/03/20
路地
50
街を形成するほどの巨大な工場で、なんの役に立つかも分からない仕事に従事する登場人物たち。なぜか色のない殺風景な情景が思い浮かんで、当初はディストピアかと思ったのだけど、よく考えるとさしたる不安もなく平穏に仕事を続けていられるって幸せじゃないかと思ってしまう。佳子の内向的な毒づき方やひねくれ方がリアルで面白い。2023/05/30