内容説明
火葬したはずの妻が家にいた。「体がなくなったって、私はあなたの奥さんだから」。生前と同じように振る舞う彼女との、本当の別れが来る前に、俺は果たせなかった新婚旅行に向かった(「ゆびのいと」)。屋上から落ちたのに、なぜ私は消えなかったのだろう。早く消えたい。女子トイレに潜む、あの子みたいになる前に(「かいぶつの名前」)。生も死も、夢も現も飛び越えて、こころを救う物語。
著者等紹介
彩瀬まる[アヤセマル]
1986(昭和61)年千葉県生れ。上智大学文学部卒。小売会社勤務を経て、2010(平成22)年「花に眩む」で「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
474
タイトルと表紙画買いだったが、全然想像と違った。そもそもタイトル作がない詐欺(失礼)。でも作者独特の濃厚な言い回しを楽しむことができ幸せ。次はがっつりと長編で読ませて欲しい。2023/11/15
さてさて
193
『体がなくなったって、私は光樹の奥さんだから。ごはんも作るし、お世話もするよ』。亡くなったはずの『妻』からそんなことを言われる夫の日常を見る物語など6つの短編が収録されたこの作品。そこには、本来存在しないはずのものが色濃く存在を主張する不思議な物語が描かれていました。”ホラー”と言えば”ホラー”なこの作品。そんな物語に、「朝が来るまでそばにいる」という書名が不思議なあたたかさを感じさせもするこの作品。彩瀬まるさんらしい摩訶不思議な世界の描写が連続する物語の中に、どっぷり浸らせてくれる素晴らしい作品でした。2025/02/07
のいじぃ
111
読了。人の心に棲まう怪奇譚。裏表紙のあらすじとは印象が全く違う。しっかりと物の怪も出てくるので最初は何事かと困惑した。いくら救いがあっても、人によっては題材を含め苦痛になるかも知れない、そんな短編集。ただ、歪なのにどこか納得してしまう人の冥い情を滑らかな表現と文章でさらさらと綴り、つい目が追ってしまう不思議な魅力もある。中にはその性癖は墓まで持っていってくれないかな、と思いもしたけれども。あと、肉を食べ切ると連れて行かれるという怪談には既視感を覚えつつ記憶が遠い。これはホラーではなく人の心がもたらす怪異。2019/09/22
ベイマックス
110
6つの短編集。実際に身に起こったら怖い物語だけど、恐怖をあおる展開ではなく、人の心にある妬みや羨ましいとの感情や悲しみが、隠されつつも時に噴出して表現されてくる。そして、救いの手もある。でも、素直に救いの手を掴めないもどかしさ。物語が動くにつれ、心境が揺さぶられ、救いの手を取った時に、自分以外の周りの人もそれぞれが妬みや羨ましさなどを抱えていたと知り、後悔もし、自身を取り戻していける。そんな短編集だと感じた。ドキッとしたり、うるっとしたり、ほのぼのしたり、考えさせられたり、なかなかな物語でしたよ。2020/10/18
やも
97
死が生きている人たちとの世界を分け隔てても、暗闇に長く居続けても、朝が来るまで誰かがそばにいてくれてる短編6話。大切な人を無くした悲しみが、死への抽象的な恐怖が、グロテスクに変わっていく。ホラーテイストな仕上がり。でもその果てに何かが浄化されていくような描写は、このタイトルがぴったり。お母さんを亡くした父子家庭の話【よるのふち】と、【明滅】に出てくる「あなたの名前を呼べば、大事にされたことを思い出せる」って台詞が気に入った。★32022/10/04