出版社内容情報
故郷へと向かう復員列車で、窮地を救ってくれた木地師を探して深山をめぐるうち、男は生の実感を回復していく。著者初の現代長編。
上海留学中に応召し、日本へ復員する列車の中で、矢田部は偶然出会った小椋に窮地を救われる。復員後、その恩人を探す途次、男が木地師であることを知った矢田部は、信州や東北の深山に分け入る。彼らは俗世間から離れ、独自の文化を築いていた。山間を旅するうち、矢田部は二人の女性に心を惹かれ、戦争で失われた生の実感を取り戻していく……。絶賛を浴びた著者初の現代長編。
内容説明
上海留学中に応召し、日本へ復員する列車の中で、矢田部は偶然出会った小椋に窮地を救われる。帰郷後、その恩人を探す途次、男が木地師であることを知った矢田部は、信州や東北の深山に分け入る。彼らは俗世間から離れ、独自の文化を築いていた。山間を旅するうち、矢田部は二人の女性に心を惹かれ、戦争で失われた生の実感を取り戻していく…。大絶賛を浴びた著者初の現代長編。
著者等紹介
乙川優三郎［オトカワユウザブロウ］
１９５３（昭和２８）年、東京生れ。千葉県立国府台高校卒。’９６（平成８）年に『薮燕』でオール讀物新人賞、’９７年に『霧の橋』で時代小説大賞、２００１年に『五年の梅』で山本周五郎賞、’０２年に『生きる』で直木賞、’０４年に『武家用心集』で中山義秀文学賞、’０５年に『脊梁山脈』で大佛次郎賞をそれぞれ受賞（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アッシュ姉
74
木地師への興味が持続せず、少々苦戦。主人公が高等遊民のように思えてきた己の感性の乏しさに苦笑。女性はみな逞しく魅力的だった。2020/05/01
じいじ
72
「乙川小説の魅力は、時代小説にあり」と決め込んでいた。この現代小説の処女作を6年も眠らせていたことを、いま後悔しています。さて、物語の主人公は、青春を学徒動員に捧げて無事帰還した元兵士。敗戦直後の東京は欠乏と哀しみ、そして諦めに暮れていた。母一人の家に戻った彼は「とにかく目の前の一日を生きよう」と決意します。「おまえの一生の仕事を、焦らないで探しなさい」と、母の助言が胸に沁みます。読み終えてー戦争の恐怖、惨さ、愚かさーを改めて思いました。いま、ロシアとウクライナの戦争は、決して川向こうの火事でないことも。2023/08/05
クリママ
50
復員途中で窮地を救われた恩人を探す。男が木地師であることを知り、信州や東北の山に分け入る。顔も人も変わる様な戦争、戦後の復興、女性の生き方、木地師の源を探るうちに踏み込んでいく古代史。渡来人にもたらされた知識、技術と共に、日本人はもとより、天皇家にまで半島の血が混じっているのではないかという考察（それは、多くをもたらしてくれたにも関わずその出身者を蔑む日本人のあり方に疑問を投げかけている）。伯父からの財産という設定は好きにはなれないが、それがなければ書けない内容なのだとも思う。多くを学び、考えさせられた。2020/05/23
TATA
49
乙川さんは3作目。淡麗な文章でしっとりと語ってくれる。戦後の引揚げ時の車内で出会った男性。それが縁となり主人公は伝統芸能の世界に身を埋めていく。戦争で失われた時間と心を時間をかけ少しずつ再生していく。主人公はダラダラとしがちなのですが、その周りの女性たちの生き様に力をもらえました。大佛次郎賞受賞作品。2020/05/26
KEI
48
著者初の現代小説。静かな文体は時代小説と変わらないが、15年に渡る1人の男の歩みを読み続けるのに時間が掛かってしまった。復員兵として日本に辿り着いた谷田部信幸はたまたま列車の中で小椋に親切にされた。小椋は木地師の様だと知った信幸はその足跡を調べ始める。【木地師が山に休らう様に、国や時代に翻弄される人間にも還るところがあることであった。失ったものが惜しいなら、青春も含めた再生しなければならない】歴史的な事柄の解説云々は辛抱の読書であったが、読後感は清々しい。逞しく生きていく女たちの姿も良かった。2019/01/09
