内容説明
ユリアヌスは数々の改革を実行したが、その生涯は短く終わる。政策の多くが後継の皇帝たちから無効とされ、ローマのキリスト教科は一層進んだ。そして皇帝テオドシウスがキリスト教を国教と定めるに至り、キリスト教の覇権は決定的となる。ついにローマ帝国はキリスト教に呑み込まれたのだ。この大逆転の背後には、権謀術数に長けたミラノ大司教、アンブロシウスの存在があった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
411
このシリーズのタイトル「キリストの勝利」がついに決定的なものとなる。立役者はミラノの司教アンブロシウスである。彼はもともと有能な官僚だったようだが、アタナシウス派に乞われて司教に。それにしても、わずか1週間ほどでの司教の速成である。この人は、それまでキリスト教徒でさえなかったのにである。こんなのでいいのだろうかと思うが、この時にアリウス派が先に彼に接近していたらどうなっていただろうか。現代のカトリックだけではなくプロテスタント諸派も基本的には全て三位一体派なのであるから。大きな大きな歴史の分岐点だった。2020/12/04
ケイ
89
ユリアヌスの死後、ペルシャ王シャブールも年老い、かつての勢いを失っていく。ヴァレンシアヌスと彼が指名したテオドシウスの二人の皇帝がキリスト教に傾倒する。ミラノの権力者アンブロシウスはキリスト教徒ではなかったは、司教に任命された後は、キリスト教の帝王を思うがままに動かした。特に名実ともに唯一の皇帝となったテオドシウスが現役の時に洗礼を受けたために、司祭はキリスト教を通じて皇帝にも力を及ぼす。彼は、異教徒やキリスト教の異端者に対しての弾圧を始める。ローマの神々達の偶像の破壊はここで本格的に始まった。2014/12/09
優希
79
ユリウスの没後、ローマのキリスト教化はどんどん進んでいきます。最終的に、皇帝テオドシウスにより、キリスト教は国境となり、他の宗教は邪教とみなされるようになります。ローマ帝国はキリスト教に侵食され尽くしたと言ってもいいでしょう。異教や異端の排除により、古代ローマの神々も否定されることになるのですね。背後にいるミラノ司教・アンブロシウスの力が凄いのでしょう。2018/11/12
KAZOO
63
たしかにこの3巻の副題にあるように「キリストの勝利」なのでしょうね。ユリアヌスの短い生涯に対して、その後の皇帝はユリアヌスの政策を否定してキリスト教を国教とします。その背後にはこの巻での主人公である司教アンブロシウスの存在が大きかったということですね。読んでいてなにか日本の時代劇のような気がします。2015/05/14
ホークス
47
塩野七生氏のローマ史40/43巻。4世紀末、キリスト教が国教とされた。古来の多神教は迫害され、神殿や神像は壊される。ゲルマン人など蛮族も抑えきれず、常態的に侵される。守備兵の多くが蛮族出身(のローマ市民)で区別がつかない上、そもそも命の重みが蛮族とローマでは違う。ローマブランドの失墜は、時間の問題ではあった。帝国はフランスの北半分を放棄し、さらに成り行きから東西に分裂。国内では上下や新旧の思惑が入り乱れる。統治のためにキリスト教にすがっていたのだと改めて思う。ハッキリと「終わり」が始まった。2022/12/15