内容説明
「全国統一話し言葉」の制定を命じられた官吏・南郷清之輔は、妻、舅、使用人たちの放つ十もの方言が飛び交う中でひたすら途方に暮れていた。発音、人情、エゴイズム…。壁は次から次へと立ち塞がった。明治初期に方言の統一という超難問に翻弄される人々の姿を大爆笑のうちに描きながら言葉の本質、言語の生命力を高らかに宣言する傑作。幾度もの舞台化を経て今なお色褪せぬ伝説の戯曲。
著者等紹介
井上ひさし[イノウエヒサシ]
1934‐2010。山形県生れ。上智大学文学部卒業。浅草フランス座で文芸部進行係を務めた後、「ひょっこりひょうたん島」の台本を共同執筆する。以後『道元の冒険』(岸田戯曲賞、芸術選奨新人賞)、『手鎖心中』(直木賞)、『吉里吉里人』(読売文学賞、日本SF大賞)、『不忠臣蔵』(吉川英治文学賞)、『シャンハイムーン』(谷崎潤一郎賞)、『東京セブンローズ』(菊池寛賞)、『太鼓たたいて笛ふいて』(毎日芸術賞、鶴屋南北戯曲賞)など戯曲、小説、エッセイ等に幅広く活躍した。2004(平成16)年に文化功労者、’09年には日本藝術院賞恩賜賞を受賞した。1984(昭和59)年に劇団「こまつ座」を結成し、座付き作者として自作の上演活動を行った(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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niisun
16
維新後、自由な往来が許され、全国各地で醸成されてきた話し言葉が、一気に入り乱れることになり、特に人口の集積した東京では、日本人同士で会話が通じなかったという話は良く知られていますが、それを題材にした井上氏の戯曲。方言飛び交う舞台の脚本なので多少読み難さはありましたが、ちょっと読み慣れてくると興に乗ってするする進みました。私も高校まで埼玉で生活していて、当然、訛りのない標準語を操っていると思っていたのが、大学で変なイントネーションと語尾の癖を知ることになったくらいなので、当時の人達の大変さはいかばかりか…。2018/02/24
リンタ0209
10
井上ひさしさんが主宰していたこまつ座は何回か見たことがある。しかしこの國語元年は見たことがなかった。この作品では日本の様々な方言が出てきて、文字に書いてあるのに内容がわからなくなることも多かった。 その方言の統一をするのだって、これだけ方言があるのだから、相当大変だったんだろうなと思う。そして、方言がなくりつつある現代にこの戯曲は日本の文化を残す大事な作品だと思う。 この前、初めてYouTubeで昔の日本語や今は話されていない方言を聞いたことがある。 これからも言葉の文化は知らなくてはならない。2024/01/03
はる
10
東京府麹町番町善国寺谷 南郷清之輔邸の住人12名。お国も出も、ましてや母語も全て異なる面々。言葉が通じないかと言えば確り楽しくやっている。文明開化日本を凝縮した一つ屋根の下。統一国家の体を成す全国統一話し言葉を求め弄ぶ清之輔の結論は発音と基本言葉を唱歌に作り幼少からの教育へ。 標準語の横に添えたお国訛りのルビが頭を混乱させ、良い脳トレになった。 井上ひさしさん久しぶり。楽しい読書だった。 方言撲滅や簡易日本語などに対し「人間は言葉を自由に使いこなせないと生きていられないのだ」と主張は正しくと膝を打った。2021/05/11
ドシル
8
同作はドラマにもなったらしいが、この本は舞台版の戯曲。 小説と違い戯曲の読み込みは慣れない上、様々な方言のセリフばかりで大混乱(笑) 世は明治7年。明治維新後に様々な方言があり意思疎通が難しいから、日本語を全国統一する命を受けた清之輔を中心にあーだこーだする作品。 この方言が主役とも言える作品は舞台で、役者泣かせだと思うが舞台で見たらかなり楽しそう。 言語政策はいつの世も難しいものだなあ、、、。2018/01/30
またの名
7
登場人物全員がそれぞれ方言を話すため劇内でも読者にとっても了解困難なコミュニケーション不全が多発する、日本語統一計画を描いたTVドラマの戯曲。近代的に言語を標準化しようとして、維新戦争からまだ日の浅い国家建設初期フェーズに今度は言葉を巡り争いが起きかねない難事業が、いつも飲み食いしながら突然合唱し無駄話を交わす喧騒の中で進められる。どちらを立てても他方がキレる面倒な采配を損じれば「血の雨が降る」可能性アリ。誰もが知っていて癖のない共有度の高さを模索した結果、シモの世界が全国共通として抜擢される奇怪な論議。2024/06/22