内容説明
私は、彼の何を知っているというのか?彼は私に何を求めていたのだろう?大学教授・村川融をめぐる、女、男、妻、息子、娘―それぞれに闇をかかえた「私」は、何かを強く求め続けていた。だが、それは愛というようなものだったのか…。「私」は、彼の中に何を見ていたのか。迷える男女の人恋しい孤独をみつめて、恋愛関係、家族関係の危うさをあぶりだす、著者会心の連作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
414
ミステリーの要素を秘めた6つの連作短篇から構成。全ての物語の中核に潜むのは、中国古代史研究者の村川である。ただ、彼が物語に直接登場するのは、「予言」のごく一部分のみ。すなわち村川は潜在的な因子ではあるものの、主人公は周縁にいるそれぞれの人たちである。また、いずれの物語においても、起承転結の結が茫洋としており、そういえばそもそも起もまた朧気である。すなわち、これらの小説は中空で自立するといった構造を持っているのである。文体は、三浦しをんの中でも独特であり、時には島尾敏雄を遥かに望見するような⇒2025/04/17
HIRO1970
342
⭐️⭐️⭐️毎回ながらしをんさんの文章が美しく、そしてその無駄の無さに驚きと憧れすら感じます。序盤はただの短編集かなとおもいつつ訳も分からず読み進めましたが、中盤以降になって表題の意味がようやく判明してきました。一人の人間に纏わる関係者の話題でこれだけ多くのドラマを書き出して尚且つ本人は全くと言っていいほど登場しない話を読んだのは初めての経験でした。何とも凄い構想力でまたその創造的な構想を実現する言語と文章力の凄さに参りました。この時、著者はまだ20代でこの先どこまで着いて行けるのか心配になってきました。2015/06/07
さてさて
340
人は誰であれ、その存在によって他の人に影響を及ぼしていくものです。この作品では、村川融という存在が彼の人生に何らかの形で関わっていく主人公達の人生に影響を及ぼしていく様が描かれていました。短編ごとに語られる村川融の存在が短編を経るごとに大きくなっていくのを感じるこの作品。短編ごとに『バイク』や『ぬか漬け』、そして『うさぎ』などを短編世界に意味を持って登場させることで、物語に不思議と深みを与えていくのを感じるこの作品。美しく綴られていく物語の中に、今のしをんさんらしさに繋がるこだわりの感情を見た作品でした。2023/01/05
SJW
252
沢山の浮気を繰り返す大学教授の村川融と彼を信奉する浮気相手の女達、それに関わる男、息子、娘たち。それぞれに闇を抱えた各章の主人公が疑い、悩み、苦しむ。所々に唸るほど巧妙な文章が出てくるが、何故か引き込まれない。沢山の浮気で妻や家族を取っ替え引っ替えする話に感情移入できないことが原因だと思う。2018/04/29
風眠
251
はじめの切羽詰まった気持ちの時には「ごっこ」でもいいと飛び込んでしまう。そこには確かに幸せの形があったのかもしれない。恋愛ごっこ、夫婦ごっこ、不倫ごっこ、家族ごっこ、自殺ごっこ、悲しいごっこ、満たされごっこ。けれど心の熱が冷め、自分たちという形を冷静に見られるようになると、今度は不安や恐怖でがんじがらめになってしまう。「ごっこ」でもいいと、かつては一途に信じていた愛が亡骸になっても、空っぽになった愛にしがみつき、諦められなくて、認められなくて。人の心はいつだって不条理を抱えている。だからこんなにも苦しい。2019/05/03