内容説明
ある夏の朝、波多雪子は庭先を通りかかった一人の男と知り合った。庭に咲く朝顔の種を分けてほしい、と声をかけてきたその男は、やや投げやりな性格であったが、優しい一面も見せ、時おり訪れては話をするようになっていった。だが男には別の顔があった。自らを詩人と称して次次に女性を誘い、犯し、殺しては埋めるという冷酷な人間。雪子はまだ、その顔を知らなかった…。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
72
物語は「宇野富士男」という 手当たり次第に女性を襲い、殺して埋めるという冷酷な悪と、「波多雪子」という何事にも期待を抱かず、つつましく 控えめに生きていく女性という聖とを対照的に登場させながら、進んでいく。ただ、曽野綾子がこの対比で何を描こうとしたのか読んでいてよくわからなかったというのが正直なところ。「悪」の描き方も中途半端で魅力的な悪でなく、犯罪にいたる感情も突発的であり、「聖」の描き方もむしろあきれはてるほど、純粋無垢であり、ただ淡々とした印象しかない2010/05/23
なま
15
★4 大久保清事件(1971年3月から1ヶ月ちょっとで未成年者6名を含む8名の連続殺人事件)がモチーフ。自己中心的で些細な事が原因で衝動的に行動する富士男。自宅でひっそりと暮らす雪子は優しさの中に嘘も丸ごと包み込み、悪い事にはしたがわなくて良いのよ。とサラッと言えてしまう心の強さがある。悪と聖の対比。上巻を読み終えて思うのは朝顔(ヘブンリーブルー)を見つけた富士男は暗黒の中で聖なる雪子が一筋の光となり、雪子もまた、閉塞された生活の中で本能的に自分を表現する富士男に天上の青を感じたのだろうか。2023/01/14
うのきち
12
大久保清事件という婦女連続暴行殺人事件が題材らしい。ナンパ、世間話、ナンパ、世間話、殺人、ナンパ、世間話、殺人、ナンパ、……という繰り返しで眠くなってくるが、雪子というクリスチャンの女性が今後この男にどこまで影響を与えるのかが気になるところと云えば気になるところである。2011/03/06
オカピー
11
天井の青(ヘブンリー・ブルー)。猟奇的な殺人をし続ける富士男と家の中で仕事を続ける雪子。居場所のない富士男、セックスと時間つぶしを探し求めて彷徨う。居場所を部屋の中だけしか見いだせない縫物をして生活をする雪子。今後の展開は、(下)巻で。2023/09/09
yumimiy
11
これ、すべてが雪子の妄想でしたっていうオチだったら面白かった。なぜなら世捨て人のような雪子の言動が薄気味悪いからだ。”連続殺人犯VS天使っぽい女”の物語みたいで納得できなかった。個人的には冨士男の方が人間味がある。思うがままの行動、超自己チューでろくでなしの見本のような男。これも人間の本質であって、犯罪を犯すまいとする一般人は理性で抑えているだけ。殺された小学生だが、大人に対しあんな生意気な態度や発言をとったらポカってゲンコツのひとつでも与えたいくらいだ。勿論、悪いのは冨士男。雪子のような女は苦手なだけ。2017/11/25