内容説明
トノサマがえるのブンナは、跳躍と木登りが得意で、大の冒険好き。高い椎の木のてっぺんに登ったばかりに、恐ろしい事件に会い、世の中の不思議を知った。生きてあるとは、かくも尊いものなのか―。作者水上勉が、すべての母親と子供たちに心をこめて贈る、感動の名作。本書は『青年座』で劇化され、芸術祭優秀賞をはじめ数々の賞を受賞した。巻末に「母たちへの一文」を付す。
著者等紹介
水上勉[ミズカミツトム]
1919‐2004。福井県生れ。少年時代に禅寺の侍者を体験する。立命館大学文学部中退。戦後、宇野浩二に師事する。1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。’60年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、’61年『雁の寺』で直木賞、’71年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、’75年『一休』で谷崎賞、’77年『寺泊』で川端賞、’83年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。2004(平成16)年9月永眠(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
104
面白かったです。跳躍と木登りが得意なトノサマがえるのブンナ。大の冒険好きが手伝い、高い椎の木に登って様々な不思議を知るというのが、大切なことを教えていることに通じていると思いました。一見、色々な生き物が言葉を話すお伽話のようですが、弱肉強食、命のこと、生きる意味など、大切なことを伝えるだけでなく、考えさせてくれます。子供向けに書かれた作品ですが、著者が言いたいことが全て織り込まれている物語だと思いました。しんどいことも多いけれど、一生懸命生きよう。2016/08/24
空猫
39
お気に入りサンより。児童書。仲間の内で唯一木登りが出来る蛙のブンナが、10mの木の先まで行ってみればそこは鳶のエサ貯蔵場所だった。窪みにある土の中で隠れていると、百舌、雀、鼠、蛇、蛙、、と次々に捕らえられたモノ達が。捕らえられた後悔、死にたくないとあがき、慰めあったり、警戒したり。…生きてる者は、全て死ぬ。死んだら土に…土から新しい生物が出てくる。全てまた生まれ変わる。生きるとは、食べるとは、、、戦場、病床、傷ついた者達の気持ち、、読み手によって場面の想像が異なるだろう、中々に深いお話でした。2022/08/18
S.Mori
32
子供向けの童話ですが、むしろ大人が読んだほうがためになるのではと思う作品です。トノサマがえるのブンナが椎の木に登り、そこで自分を変える大きな体験をします。それは、どんな生き物でも、生きるために他の生物を犠牲にする必要があることを知ることでした。作者が僧侶になるために学んだ仏教の思想が生かされています。他の生物を犠牲にしなければならないのなら、どう生きたらよいのかという答えに誠実に答えを出そうとする作者に脱帽。全ての命は繋がっているとブンナが気付く結末は、美しくて気高いです。2020/08/13
東谷くまみ
30
この世には善と悪があり激しく憎むような悪い人にも親がいて愛情や生き方を教えてくれていたという事。この世には抗えないさだめがあるという事。遅かれ早かれ生まれてきたならば死ぬ運命にあり、その覚悟はあるのかという事。死んでも尚、その生は受け継がれ未来へと続いていく。死も受け入れる勇気を持つこと。世の中は回り回って死が生になるという事。人生は思うように進まないし、まさかも多々ある。それでもこの世に生をうけたなら頑張って今日を生き、生きられる喜びを噛みしめこれからも懸命に生きていく大切さをブンナに教えてもらった。2020/07/29
にゃおんある
28
生まれて来なければよかったと思うときがあります。肉体的には肯定できても、精神的には否定するのです。木から降りられなかったカエル、笑ってしまうほど莫迦げた理由で自滅の道に入ってしまう。避けられない道理、合理性のない理由、理不尽な争い、闇雲な運命の果てに死ぬのです。いっそ生まれて来なければよかったと考えてしまうのは、ごくごく自然な話しで、死に向かって走る、いわば逆走できない生から苦しみ逃れて、自己を防衛する手段は一つしか思い当らないのです。木に登らなければいいと、考えうる人は幸いです。2022/02/13