内容説明
婿養子の父親は懸命に働き、店の身代を大きくした。淫蕩な母親は陰で不貞を繰り返した。労咳に侵された父親の最期の日々、娘の懸命の願いも聞かず母親は若い役者と遊び惚けた。父親が死んだ夜、母親は娘に出生の秘密を明かす。そして、娘は羅刹と化した…。倒叙型のミステリー仕立てで描く法と人倫の境界をとらえた傑作。注釈付文字拡大新装版。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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とん大西
121
病に倒れ、薄幸のまま死んでいった最愛の父。そんな父の忌わの際でさえも放蕩淫蕩に及ぶ母。赦せないのは何だったか…おしの。父が死んだその日、その骸とともに母もおしのも炎に包まれた。正月早々の亀戸、「むさし屋」の寮の焼け跡には親子三人の死体…だったはず。数ヶ月後、情事の間際に釵で殺された三味線弾きの蝶太夫。赦せなかったのは何だったか…。復讐、そしてさすらい。影のように、その刹那に生を注ぐおしのがひたすら哀しい。2022/11/05
えちぜんや よーた
90
養父の喜兵衛を偲ぶあまり6人もの殺人(加えて放火)を行ったことは江戸時代でも現代でも極刑に値することであるが、なぜかおしの(主人公)には同情を覚える。読者が「アンチ・おしの」にならないように善玉悪玉の両方の側の心情を事細かに描写しているように思う。善の方はより清らかに、悪の方はよりくされ外道の方にと。その善悪のコントラストがはっきりしているゆえに、猟奇殺人事件の加害者を庇いたくなる読者自身が自己嫌悪に陥らない仕組みになっているように感じた。2022/11/23
じいじ
89
「あとに堪えるから、もう徹夜はしない!」と思っていたのに…。なので眠いです。主人公・しのの父親が病で死に至るまでの前半は、これまでの山周小説では一番つらかったかもしれません。私はこの父親に惚れました。喀血しても「薬はいらぬ。ぬるま湯に塩を…」と気丈な主人、そして父親です。ひたすら一人娘のために商売に精を出します。その父が息を引き取った直後に「おまえはこの人との娘でない」と母に告げられます。物語はさらに佳境に入ります。ミステリー調の凄まじい、ひと休みできない小説でした。2023/10/09
優希
41
主人公の娘に感情移入してしまいました。ただ、犯罪なんですよね。母親が関係した男たちを次々と殺してしまう。善悪とは何かを考えさせられます。2024/12/29
ソーダポップ
34
主人公は、十八歳の“おしの“という女性であり、母の浮気相手の復讐劇である。この小説を読んで理解できないのは、母親への強烈な拒絶と憎しみから、“おしの“を連続殺人に走らせるが、十八歳という“おしの“の若さ、潔癖さを鑑みてもややずれている感は否めず“おしの“の心情は理解し難いものがあった。どちらかというと、著者の作品の中では、ある意味異色でありエンタメ色の強いストーリーではあったけど、根底には周五郎らしい暖かな眼差しを感じられる著書でした。2022/03/05
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