出版社内容情報
貴方と生きると決めた時、私は涙を捨てた。妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であった──(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靱さと、凜然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。
山本 周五郎[ヤマモト シュウゴロウ]
著・文・その他
内容説明
妻が死んだ。久方ぶりにその手を握り、はっとする。酷く荒れていた。金銭で困らせたことはなく、優雅な生活を送っているとばかり思っていたのに、その手は正に働く女の手であった―(「松の花」)。厳しい武家社会の中で家族のために生き抜いた女性たちの、清々しいまでの強靭さと、凛然たる美しさや哀しさが溢れる三十一の名編。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文藝春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
80
幻の直木賞になった著者の『小説日本婦道記』の母体になった小説集。武家や学者など…時の男たちを支えた、31人の女たちの強さ、やさしさ、つつましさ…など、その生き様を綴った渾身の一冊です。どの話も面白かったが、私は【松の花】が好きです。妻の死で改めて知る、妻の人となりです。葬儀も終わり、夫がひとり静かに、妻が嫁いできて家のなかが匂やかに包まれた…ことなど、妻との想い出を回想するシーンは、とても心に沁みました。読み終えて、私も妻とは50年も一緒にいるのに、気が付いていないことが山ほどあるのだろうと思った。2022/07/04
AICHAN
50
再読。短編集。戦時中に書かれた作品。主君(天皇)への忠勤が強調されていた時代に、立憲君主制と軍国主義の影響が皆無とは思えない、そして、昔の女性は夫や子どもたちの陰でその功績を隠すのが美徳というのもその影響のひとつかと思える。しかし作者の山本周五郎は後者については強く否定している。健気に生きた女性たちに光を当て、また彼女たちによって人がましく生きた男たちを賛美する作品だと主張している。美しい文章にため息がもれる。声に出して読みたい日本文学最高峰の格調高い日本語の作品群だと思う。2024/04/18
優希
48
厳しい武家社会を生き抜くためには家族、特に妻の支えが大切のだと思いました。清々しいまで強かさと美しさや哀しみが詰まった短編集だと思います。2023/04/11
AICHAN
46
再読。Kindle本を読んだ。短編集。「糸車」ではむせび泣いたが、他の作品ではやはり泣けなかった。文庫本ではすべての作品でおいおい泣けるのにKindle本ではほとんど泣けない。電子書籍にはやはり感情を動かす何かが欠けているとしか思えない。教科書を電子書籍にするという動きがあるようだ。私は反対だ。電子書籍にはやはり欠陥があると思うからだ。2022/09/04
おか
42
30年近く朗読をやってきて わが劇団の演出家がいかに山本周五郎の作品 殊に 婦道記が好きだった事がわかる一冊です(笑)殆ど全て朗読でよみました。好きなのは「松の花」、「梅咲きぬ」、「不断草」、「風鈴」です。今回 朗読ではなく 黙読でしたが涙をこらえるのが大変でした。未だ演出家の言った言葉が耳に残ってます。涙は出るに任せる、しかし 声は淡々と って(笑)これが一番難しかった。それ位 感動する山本周五郎の素晴らしい一篇一篇です。今の世の中の奥深い底流にこの心意気が残っていて欲しいですね。2024/06/26