内容説明
どんな激戦に臨んでもいつも生きて還ってくるために、臆病者とさえ誤解されながら、なおも生きつづける兵庫源八郎。その細心にして豪胆な戦いぶりに託して、“玉砕”と叫ばれていた太平洋戦争末期に作者の信ずるところを強く打ち出した。〈日本士道記〉シリーズの表題作。かけ遺った恋に衝撃を受けつつも、剣の道を貫く「藤次郎の恋」。ほかに「立春なみだ橋」「豪傑ばやり」など全12編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
73
「小説は読後感が爽やかでなければならない…」が、山本周五郎の持論だそうだ。12短篇集、青年武士の男気を描いた【藤次郎の恋】でそれを感じた。剣術師範が藤次郎、数馬ら愛弟子に約束します、「君たちが恋う一人娘は、五人の勝者に嫁がせる」と。この物語の見どころは、父親の思惑と娘の意中の人が違っているところ。もう一篇は【熊谷一郎左】天下分け目の一戦「関ヶ原」の後日談余話?。主人公は、福島正則に仕えた無役の男。ヒマさえあれば居眠りのぐうたら男。この話、単なる笑いだけの喜劇に終わらせないのが、山周さんの凄いところです。2024/12/29
金吾
35
○山本周五郎さんの武家ものは信念と涼やかさをもった人物が出てくるので読んでいて楽しいです。軒並み面白い話でした。2023/06/28
タツ フカガワ
32
10年ぶりの三読。全12話の短編集(戯曲も1編)。ほとんどは武家物で市井物は「立春なみだ橋」の1編ですが、どれも読み進むうちに目が潤んでくる物語ばかり。なかでも「新女峡祝言」「立春なみだ橋」と表題作が良かった。いまさらながら短編の名人芸を堪能しました。2021/03/16
金吾
19
○武家の涼やかさが伝わる作品集です。非常にいい読後感があります。特に「熊谷十郎左」「足軽槍一筋」「藤次郎の恋」「新女狭祝言」「豪傑ばやり」「虎を恐るる武士」は面白かったです。2020/10/01
Cinejazz
14
山本周五郎氏の初期の短編集12篇です。表題作の『生きている源八』をはじめ『虎を恐るる武士』『豪傑ばやり』『足軽槍一筋』などは、武道家として慎ましく謙虚に日々を過ごすなか、ここぞという場面で真価を発揮し忠義の証しを立てるという、読む者を爽快な気分にさせる時代小説です。身分の上下をこえた人情味ゆたかな風情と情愛あふれる物語の展開に、拍手喝采を贈りたくなる逸品揃いです。2021/07/02