内容説明
枯野の襖絵に点睛を加えるために、初めて会った芸妓に野原で扇を落させる流れ絵師。その後の二人の道行きと、その陰で力をつくす女のまごころを鮮やかに写し取った『扇野』。“三十ふり袖、四十島田”のたとえに流れる女の哀しみを、下町の人情と善意で救った『三十ふり袖』。なにげない会話や独白のなかに男女の機微と人生の深い意味を伝える“愛情もの”の秀作全九編を収録する。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文芸春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた
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感想・レビュー
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じいじ
88
オトナの男と女の恋と愛を綴った9篇すべてが粒ぞろいの短篇集。周五郎が描く女性が素晴らしく、私は好きだ。◆歓びも悲しみも、互いに分け合うのが夫婦。良き夫を持った妻は幸せ者【夫婦の朝】◆夫婦の本当の愛とは?を考えさせられる物語【めおと蝶】◆私は躊躇うことなく表題作【扇野】を推したい。絵師・栄三郎にかかわる三人の女たちの物語。芸妓おつるとの「もう逢うのはよそう…」と別れを誓う場面は圧巻です。自分の思いを抑えて、男の恋を助成する娘おけいが良い味を醸しています。何度でも読み返したいオトナの純真な恋の物語です。2020/07/27
おか
41
周五郎さんの珠玉の短編9編。この文字数で私の9編への気持ちは表せない、それ位全てが素晴らしい。やはり周五郎さんの男の描き方が秀逸で 其の漢がそばにいるから女が活きる。表題作の「扇野」は文章の中にくっきり赤い色が浮かび上がる。「滝口」という題名にもあ~~~という納得感がある。男と女の生き方を河に譬え 二人揃って同じ河を流れていけば 最後には 怒涛のように滝口に流れ込む。。。私の拙い文章力では 自分の感動さえも表現できない!悲しい!御薦めです♡2024/07/24
ももたろう
35
山本周五郎の短編の凄いところは、どの作品もまるで長編を読了した後のような感動を読者に与えるところだと思う。そして今回気がついたことがある。周五郎は市井の人々の貧しいながらも誰かのために懸命に生きる姿を描くのが上手いだけでなく、ストーリーテリングの名手である。起承転結が鮮やかであり、伏線も巧みに利用する。読者として物語に自然に感情移入できる。だからこそ、作中人物に親しむことができ、共に喜び、共に悲しみ、共に勇気づけられることができる。彼は理性と感性のバランスが大変優れた稀有な作家だと思います。2017/09/17
金吾
27
男女の心の機微に触れている作品が多いです。「夫婦の朝」が良かったです。2023/07/08
金吾
23
夫婦をはじめとした男女の心のふれあいを書いている短編集です。作者らしい人間洞察に基づく深い人間に対する尊重を感じます。「めおと蝶」が良かったです。2021/01/10
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