内容説明
居酒屋でいつも黙って一升桝で飲んでいる浪人、松村信兵衛の胸のすく活躍と人情味あふれる子育ての物語『人情裏長屋』。天一坊事件に影響されて家系図狂いになった大家に、出自を尋ねられて閉口した店子たちが一計を案ずる滑稽譚『長屋天一坊』。ほかに『おもかげ抄』『風流化物屋敷』『泥棒と若殿』『ゆうれい貸屋』など周五郎文学の独擅場ともいうべき“長屋もの”を中心に11編を収録。
著者等紹介
山本周五郎[ヤマモトシュウゴロウ]
1903‐1967。山梨県生れ。横浜市の西前小学校卒業後、東京木挽町の山本周五郎商店に徒弟として住み込む。1926(大正15)年4月『須磨寺附近』が「文芸春秋」に掲載され、文壇出世作となった。『日本婦道記』が’43(昭和18)年上期の直木賞に推されたが、受賞を固辞。’58年、大作『樅ノ木は残った』を完成。以後、『赤ひげ診療譚』(’58年)『青べか物語』(’60年)など次々と代表作が書かれた
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chiru
107
人の情を切なく暖かくコミカルに描き、町人の日々の暮らしから幽霊が登場する非日常まで、縦横無尽に楽しめて読み終わると優しい気持ちだけが残る作品。夫の“切ない秘密”に胸を打たれる「おもかげ抄」、お人好しの泥棒と若殿の熱い友情「泥棒と若殿」、幽霊との掛け合いに爆笑の「ゆうれい貸屋」、一番好きなのは表題作👘 時代物でよく目にする「泣き笑い」という言葉が好き。泣いて笑えば差し引きゼロ、そんな考え方が江戸の町を明るく照らしているのかもしれないな。「会いに来てくんな、待ってるぜ!」そのカラっとした掛け声が嬉しい✨★52021/12/15
タイ子
78
どの物語も最後は「うん、やっぱりいい!」と思ってしまう武士の世界と(2話は現代もの)人情が絡むほろりの11話。最初の「おもかげ抄」こんな夫に愛された妻は幸せだっただろうな、そして最後はもっと幸せな道を歩むことになる武士の話「千人に一人の婿じゃ」。長屋の浪人の元に赤ん坊を残して出世の道を選んだもう一人の浪人。仕方なく子育てをする男は次第に父親の顔になっていく。這えば立て、立てば歩めの親心、まんまの姿がほのぼのと。だが、一年後に子供を迎えに実父が帰ってきた。最後は胸キュン!講談を聞いてるような心地の物語集。2025/08/02
タツ フカガワ
72
「これ椙江、お客来じゃ」と妻に声をかける鎌田孫次郎は、長屋では女房に甘い甘次郎と渾名される浪人。が、妻は三年前に死んでいた「おもかげ抄」。飲んだくれの浪人が、ある日捨て子を育てると決意した日々がおかしくも悲しい表題作。廃屋の屋敷に幽閉された若殿と、そこに盗みに入った泥棒との友情が笑いと涙を誘う「泥棒と若殿」など、いずれも電車内厳禁の読物。四度目ながら今回もぐずぐずとなりました。2022/09/12
じいじ
71
山周の短篇集の中では大好きな1冊である。読了したと思っていたが、感想が消えているのに気がついた。原因を追求する前に、再読すのが先と考え急遽読むことに。山周小説にハズレはないが、本書の11篇はどれも面白い傑作です。とりわけ、「表題作」「おもかげ抄」…など長屋モノの5篇は飛びぬけてよかった。浪人とはいえ武士の端くれ、お涙頂戴な話は周五郎は描かない。松村信兵衛はれっきとした武士なのである。イザのときは刀を抜く、でも根っからの酒好きは治せない。表紙のイラストがそれをよく表している。ホッコリ笑みが零れる傑作である。2025/07/13
こばまり
62
読み始めてわずか20頁で早くもほろりとさせられる。いずれも講談や落語の台本の如き小気味よさを持つ。心根が優しい不器用な男が出てくると、こらいかん。またしても周五郎さんの術中にはまる。2017/01/29