出版社内容情報
緊縮財政と行政整理による〈金解禁〉。それは近代日本の歴史のなかでもっとも鮮明な経済政策といわれている。第一次世界大戦後の慢性的不況を脱するために、多くの困難を克服して、昭和五年一月に断行された金解禁を遂行した浜口雄幸と井上準之助。性格も境遇も正反対の二人の男が、いかにして一つの政策に生命を賭けたか、人間の生きがいとは何かを静かに問いかけた長編経済小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
59
経済誌において最も鮮明なことが「金解禁」。浜口雄幸と井上準之助という正反対の2人が遂行したのが興味深いところです。政治・経済史に苦手意識があるので、この手の本は殆ど読みませんが、これから少しずつ読んでみるのも面白いかとぼんやり考えました。2023/03/20
shincha
53
利他の精神の権化のふたり。浜口雄幸と井上準之助。表現の仕方と手法は真逆の2人だが、国の為に私を捨て、本気で日本の未来の為に働いた方々。余の存在が君国の為に有害若しくは不利であると…正々堂々合法的の手段に依ってその目的を達すべき…国法を犯し公安をみだるが如き暴挙敢えてするは、動悸のいかんに拘らず断じて許すべからずところである…残念ながら国の事を考え抜き、実行し続けた2人は凶弾に倒れる事になった。現在の政治家達の何人が彼等の境地で仕事をしているだろうか…。2022/05/23
Book & Travel
53
TVの歴史番組で浜口雄幸を取り上げていたのを見て以来、気になっていた小説。昭和の初め、金解禁と緊縮財政と軍縮を、首相と蔵相として推し進めた浜口雄幸と井上準之助が主人公。「浜口の静、井上の動」と評された対照的な二人だが、お互いを認め合い、日本経済立直しのために共に信じた政策を進め、そして共に凶弾に倒れる。城山氏の代表作の1つだけあって、前半の二人の半生から面白く引き込まれる。軍部や枢密院の圧力の中、根回しを嫌い、専門知識に基づいた哲学を正面から押し通す二人の姿は勇敢で格好よく、その生き方に心熱くなった。2017/06/30
まつうら
45
昭和初期の著名な財政家といえば、まずは高橋是清があげられる。多くの作品で取り上げられるほどの功績を成した人だ。しかし、この作品で語られる井上準之助は、高橋以上の偉業を成し遂げた人物ではないだろうか。景気後退で税収が減る局面で、国債発行に頼らない緊縮財政を運営できたのは、歴代蔵相の中で井上だけだと思う。一方の高橋は、井上とは逆で国債を活用した積極財政派と言える。しかし、国債依存が常態化している現在の財政運営の根源が高橋にあるとするなら、いまこそ井上の財政手腕が見直されるべきではないだろうか。2022/02/20
KJ
35
アベノミクスとは真逆の政策に命を賭けた男たちの物語。今だからこそ読んでおきたい一冊だった。どんな政策にも一長一短はある。非の打ち所がない完璧な政策は無い。ただその政策が国民受けするか否かによって、遂行に伴う困難さは大きく異なる。後者の場合であるならば、余程の知見と勇気、何よりぶれない覚悟が必要になる。国民に不人気な政策を推し進めようとする時にこそ、政治家としての真の資質が問われる。浜口と井上にとっての覚悟とは、まさに命懸けの覚悟だったのだろう。若き日の井上準之助の颯爽とした生き様には、胸の空く思いがした。2013/03/14
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