出版社内容情報
世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
613
父・直通、母・於継の代から語りはじめられる。すなわち、伝統的な説話形式をとる。これに青洲の誕生伝説が加わり、そこに請われて嫁いで行くのが「華岡青洲の妻」加恵である。於継と加恵との嫁姑の確執はいたって熾烈であった。このあたりの複雑な心理劇としての葛藤が本書の一番の読みどころだ。自らが麻酔の実験台となってゆく加恵は、もはや壮絶でさえある。青洲その人は医の天才であり、また努力の人でもあったが、常に嫁姑の確執の圏外に身を置いていた。これはあくまでも「妻」の物語なのだ。もっとも終章は青洲の顕彰に終わっているが。2020/02/21
遥かなる想い
153
世界で初めて全身麻酔による手術を行った華岡青洲の物語。華岡青洲の麻酔の研究の陰には妻と母の献身があったという。薬の人体実験に自ら身を捧げた、妻と母の確執が本当にあったかどうかの真実はよくわからないが、麻酔薬完成に向ける青洲の執念のようなものを感じていた。 2004/01/01
やいっち
143
「世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした」という物語。 (中略)2022/06/04
hit4papa
136
世界初の全身麻酔を用いた乳癌手術で有名な華岡青洲の物語。といっても、主役は実験に自らを供した青州の妻加恵です。もっぱら加恵と青州の母於継の犠牲の元の成功という美談として取り上げられますが、本作品は、随分、様相が異なります。於継に請われ嫁入りした加恵。まだ見ぬ遊学中の青州より、於継の美貌に惹かれて婚姻を望みます。しかし、青州が帰郷するや、嫁姑の亀裂が生まれ、やがて内なる憎悪に発展していくのです。人体実験は、嫁姑のそれぞれの意地の張り合いの果てという視点が面白いですね。女流作家ならではの愛憎劇です。2022/07/12
mukimi
133
麻酔科医の物語としても嫁姑の物語としても勧められたことがありずっと読みたかった。時代の変遷に押し流されない名著。昭和の女性作家は皆確固とした芯があり折り目正しくきりりと引き締まった如才ないイメージである。そしてこの絶妙な、繊細な、抜け目のない人間模様の描写の素晴らしさ。お金のためでも名声のためでもなく、知的好奇心と使命感に駆り立てられ医学の進歩に貢献した1人の偉大な医師とその背後に蠢く女性達の神経をすり減らす戦い。その対比も考えさせられる。真実は一つではなく判断する人の立場で変わることがよくわかる。2024/12/08