出版社内容情報
絶望から立ち上がる瞬間。性と食と戦争。人間の本質をえぐりとる開高文学の最高傑作。
ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる……が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。“徒労、倦怠、焦躁と殺戮”という暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷に灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
529
小説の舞台は東西統合前のボンだろうか。それにしては熱帯アジア的な気怠さに包まれている。なにより語り手の男が終始、怠惰と倦怠にどっぷりと浸かったままである。彼は作家その人と重なり合うように見えるが、おそらく開高健自身はより行動的だろう。主人公は作家を自称するが、末期の様相を呈してきたヴェトナム戦争を尻目に、終日寝てばかりいる。情動が動くのはパイク釣りの場面くらいか。アヘンにまで手を染めるほどであるから。物語は一貫して行き着くところのない内的な焦燥のうちに、いたって小説的な完結を迎える。2020/02/06
ehirano1
121
完全に読み込めずも体感は出来たような気がします。全体的になんとも心苦しい小説でした。おそらく、”当方も過去に部分的に同様の心境にあったから”、ということに読中に気付いたからです。特にp149の「・・あとどうするんだ」は今になっても女同様にコタエました。 別枠では、「白いページ①、②」でも出てきた「何かを得るためには何かを捨てなきゃならない」は著者の哲学であると確信しました(きっと他の著作でも出て来るのでしょう)。2016/01/06
ehirano1
70
気になった多数の箇所に線を引きながら再読。「全体はいつも細部にあらかじめ投影されてある。いつもそのことを私たちは忘れてしまう。そのため、全体に熱狂してやがて細部に復讐され、細部に執して全体に粉砕されてしまうのだ(P231)」・・・当方には難解、まるで小林秀雄の文章のようです・・・・・しばらく寝かせよう・・・・・。2016/01/06
奥澤啓
66
開高健の文学的営為は『夏の闇』を頂点とする。開高の生涯を概観すると、ベトナムでの戦争体験や釣りへの没頭という外面的側面と、自己の内部に沈潜していく内面的側面があることに気づく。『夏の闇』は後者の系列の作品だ。男と女が十年ぶりにパリとおぼしき街で再会しひと夏をともに過ごす。開高の分身といっていいであろう主人公は、ひたすら性に惑溺し、食に没頭し、睡眠を貪る。すべての言葉が、そこにあるように、なければならないように、そこに、ある。すべての言葉が重い。(続く)2015/06/06
キムチ
65
先日読了のヤマザキさんの本の中で当作を知る。氏の最高傑作という冠に胸ときめきつつ・・重く、昏くじめっとした空気が平和ボケした頭に侵食して来た。昭和47執筆・・行間に性欲、食欲、睡眠願望が濁流のように流れている。巻末のCWニコルの賞賛が正鵠を射る‥なんと素晴らしき筆致、煌く語彙!思えば高校生だった私・・ベトナム戦争に関しては「ディア・ハンター」から受けたインパクトが強かった。本書で読む開高氏の「ベトナム・・死の世界」が又異質のそれである。絡み合う男女・・受け身の女は無名、独でのひと時の幸の後の東京での瞬時、2025/06/01