感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
清水勇
7
高橋たか子の夫であり、代表作「悲の器」で有名な作家である高橋和己の、東京オリンピック後の不況時の組合活動に、翻弄されるインテリの主人公の心の葛藤を克明に描いている作品。主人公(著者の思いか?)の考えて考えて考え抜く姿勢に圧倒された。夫人の高橋たか子の晩年の著作で、今の人たちは時代に流されているだけという記載に違和感があったが、戦中・戦後の混乱期に自分たちの生き方を確立しようと奮闘した人たちの思いや、生きることへの執着心に感心させられ、逆に今を生きる私達が如何に何も考えないでいるのかを痛切に思い知らされた。2014/07/07
にゃん吉
4
戦後間もない頃の地方都市を舞台として、高等教育を受けて故郷に帰り、地元の優良企業で働く傍ら労働組合の委員長を務める主人公の苦悩と挫折が描かれています。社会の木鐸たるべきインテリゲンチャという概念、地域で連帯した労働組合という理想と、大規模な労働争議で露見する現実、主人公と久米洋子の関係にかかわる男女観等々、小説を構成する要素の一つ一つを見れば、古臭い過去の小説ということになるのかもしれませんが、苦悩教の教祖と呼ばれた作者の真摯さが滲み出ているような気がして、私には、惹かれるものがありました。 2021/12/08
mak2014
2
組合活動に力を注ぐ知識人の思考・心情を理性的な文体で描き尽くす。文章が読者に高いレベルで刺激をあたえてくれる。2013/09/22
もぐ
1
昭和中期、まだ戦争の影響を強く残している日本のある地方都市で中堅企業に勤める主人公が研究業務を行う中で組合のリーダーとしての活動する日々を丹念に追った小説。プライベートでは妻と実妹と組合仲間の女性との微妙な関係が並行して語られる。物語として精緻なプロットの中で如何に生きるべきかを浮かび上がらせている。ものすごく細かな筆致ながら比較的読みやすく、当時の作家たちの力量が伺われる。新潮文庫の100冊黎明期に5回選出された作品。2025/03/05
調“本”薬局問悶堂
1
やっと読み終わった~。この1冊がネックだった。 いちばん面白かったのはこの本から出てきたお母さんのメモ。30年以上前の10月の予定表(プライベート)と好きな詩か自作の詩か。 なんで面白く読めなかったのか。時代と主人公の年齢や人物像がピンとこなかった。頭の中に絵ができなかったからかな。 お母さんにはどこが面白かったのだろう。 《2020年6月 登録》 “女が強くなるってのは、自分以外の何かの支えがある時じゃないかしら。”2010/09/08