内容説明
砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに、人間存在の象徴的な姿を追求した書き下ろし長編。20数ヶ国語に翻訳された名作。
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新聞書評(2013年3月~2014年12月)の本棚
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仕事と通勤の隙間に、少しだけ世の中を考える本棚
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広く、ひろく!拡大するであろう本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1278
再読。閉じ込められた砂をひたすらに掻き出す作業―安部版シジフォスといった不条理の物語。ただし、最後はこれを受け入れるというきわめて東洋的な解決に終わる。砂に埋もれる焦燥が、細部に至るまでの実に緻密な描写力に支えられ、圧倒的なリアリティを現出させる。比喩の巧みさも卓越。2012/03/28
風眠
887
高校生の頃はじめて読んでから、もうこれが何度目の再読になるだろう。何度読んでも圧倒的に凄まじい。砂に埋もれた集落、一般社会から切り離された砂の世界に絡め取られてしまった男、脱出を夢想し毎日砂と格闘する。そして一緒に暮らすのは、砂しか知らない孤独で無知な女。異質なのに人を惹きつけてやまない魅力的な情景描写と、不気味で従順な女のエロさが何とも印象的。冒頭の「罰がなければ、逃げる楽しみもない」という一文。「罰」ってなんだろうって、ずっとずっと考え続けている。2012/11/18
パトラッシュ
852
舞台化を観に行くので云十年ぶりに再読した。暑苦しい真夏に読むと汗まみれの肌に熱い砂がまとわりつくようで不快になるが、砂丘のあばら家に女と共に閉じ込められた主人公がコロナ禍で外出自粛を強要される自分たちと重なる。感染が危険だと日々言い立てられ、いつの間にか自由を奪われた状態が当然で心地よくすら感じられる世界。「人というものは馴れる生き物」(ドストエフスキー)なので、蟻地獄に落ちて都会暮らしの常識を奪われた男も異世界での生活が心地よくなってしまったようだ。そんな人の弱さ愚かさこそ著者が描こうとしたものなのか。2021/08/28
抹茶モナカ
761
寓話的な作品。罰がなければ、人間は逃げる喜びすら、感じないのか。理数系よりの知識、思考を展開しながらも、語られる言葉は文学の言葉だ。いろいろな読み方が許される文学作品で、労働について、僕の場合は考えた。2014/01/11
ehirano1
757
パラレルワールドに迷う込んでしまったのかと思いきや、不条理こそが現実なのだと思い知らされる現実の社会でした。その意味で不条理は現実の内在的論理であることを改めて認識できるとともに、「砂」のメタは一種の「不条理」なのではないかと思いました。2023/05/27