出版社内容情報
熱い望郷の思いと帰国への不屈の魂が女帝エカテリナを動かし、鎖国日本に帰還。裸の人間の姿を写す漂流記小説の最高峰。
光太夫は、ペテルブルグへの苦難の旅路をへて、女帝エカテリナに謁見。日本との通商を求めるロシアの政策転換で、帰国への道も開かれた。改宗した二人を除く光太夫、磯吉、小市は、使節ラクスマンに伴われて、十年ぶりの帰還を果たすが、小市は途中、蝦夷地で病に倒れる。――鎖国日本から広大なロシアの地に漂泊した光太夫らの足跡を、新史料を駆使して活写する漂流記小説の最高峰。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
420
吉村昭にとって、歴史小説にリアルを求める方法は、徹底して細部に拘泥することであったように思われる。可能な限りの資料を収集し、それらを読み込んだ上で小説を構築していくのだが、時にはプロットにとって些末に過ぎることをも恐れず、書いてゆく。まさに「本質は細部にこそ宿る」のである。人名や地名しかり。それぞれの人物たちの言動もまたしかりである。今回、井上靖と同素材の小説を続けて読んだために、一層そうした印象を持った。また、日本に帰国後の光太夫と磯吉のその後は、どうやらこちらも方が幸せであったようだ。2021/07/04
読特
82
日露戦争に東西冷戦、北方領土問題にウクライナ危機。残念ながら両者が友好であった期間は短い。お互いをよく知らない時代。日本側の恐れとは裏腹にロシア側には憧憬の念があった。自国に流れ着いた漂流民。相手を知るための教師から自分たちを理解させる特使として使う。政策の道具である一方、本物の誠意も感じさせる。寒さ故か、その情は”熱い”。死にもつながる凍傷。順応しなければ住めない国。ナポレオン、ヒトラーが敗れた冬将軍。決して攻めてはいけない国。悪い感情ばかり抱いてはいけない。遠くて近い国。糸口をつかむヒントをもらう。2022/10/09
yoshida
81
光太夫達の帰国成る。しかし、キリスト教に入信した仲間は帰国出来ない。日本で禁止されていたキリスト教。ロシアの地で亡くなると、キリスト教徒でなければ墓地に埋葬もされず。絶望的に帰国が叶わない状況下での入信は理解が出来る。しかし、奇跡的に帰国が許された状況ではあまりに酷だろう。帰国後の光太夫達は再婚し子にも恵まれる。外国船が来航し日本に交易や開国を迫る中、光太夫の持つロシア後の知識は貴重であった。漂流民の様々な資料をコツコツと収集し作品とした、吉村昭さんの努力に頭が下がる。吉村昭さんの漂流モノの到達点だろう。2023/09/15
タツ フカガワ
75
壮絶な漂着行から約10年後、光太夫は女帝エカテリナとの謁見の機会を得て帰国願いを直訴し、それが現実のものとなる。奇跡のような帰国実現での博物学者キリロ・ラクスマンの献身と、ロシアに残す庄蔵と新蔵との慟哭の別れが下巻のクライマックス。微に入り細を穿つような取材と描写から浮かび上がってくるドラマに感動、記録文学の醍醐味を堪能しました。2023/03/03
たぬ
48
☆5 (上巻から続き)今みたいに鎮痛剤なんてないし想像を絶する痛みだろうな。屋外で一瞬肌を露出しただけで激痛発生+なんか汁が流れ出てくるとか。食べ物が合わないのも大変だけど気候がもう厄介すぎる。女帝に拝謁し日本へ帰ることができたのは光太夫の人間性もとても大きいと思う。分別があり冷静で聡明、船頭らしくいつでもみんなをまとめようとしてる。上巻は極寒との戦いが、下巻は光太夫の人間力が印象に残った。2022/05/12