内容説明
嘉永三年、十三歳の彦太郎(のちの彦蔵)は船乗りとして初航海で破船漂流する。アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策により帰国を阻まれ、やむなく渡米する。多くの米国人の知己を得た彦蔵は、洗礼を受け米国に帰化。そして遂に通訳として九年ぶりに故国に帰還し、日米外交の前線に立つ―。ひとりの船乗りの数奇な運命から、幕末期の日米二国を照らし出す歴史小説の金字塔。
著者等紹介
吉村昭[ヨシムラアキラ]
1927(昭和2)年、東京日暮里生れ。学習院大学中退。’66年『星への旅』で太宰治賞を受賞。その後、ドキュメント作品に新境地を拓き、『戦艦武蔵』等で菊池寛賞を受賞。以来、多彩な長編小説を次々に発表。周到な取材と緻密な構成には定評がある。芸術院会員
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感想・レビュー
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yoshida
136
炊として乗った船が嵐で漂流。アメリカ船に救助された彦蔵の数奇な運命を描く。年若く英語の覚えの良かった彦蔵はアメリカ人の好意により学校に通い、会社勤めをし商業にも触れる。アメリカ国籍を取得しジョセフ・ヒコとなった彦蔵は攘夷の激しい時期の日本に帰国する。攘夷派に命を狙われながらも、グラバー商会に勤め仕事として軍事物資を売る。維新成った後に英語を習得する者が増え、彦蔵の語学力の持つ価値は相対的に下がる。日本とアメリカ。両方にルーツを持つ彦蔵の悲哀がある。大統領三人と面会した彦蔵。その流転の生涯は想像以上だった。2022/01/03
ふじさん
114
一人の漂流民の壮絶な生涯を描くと同時に、幕末日本の裏面史が丁寧に描かれている。彦蔵の生涯は、漂流という異様な体験だけではなく、波間に漂う木の葉のように彦蔵の人生がそもそも漂流と言えるのではないか。アメリカと日本に強い思いを抱きながらも、自分の存在意義が何処にあるのかを問い続ける生涯だったのではないか。吉村昭らしい、膨大に資料を駆使して、書き上げた作品、只々驚くばかりだ。吉村昭のこの作品がなければ、彦蔵の存在を知ることはなかった。幕末の混乱が違った視点から描かれており、興味深く読むことが出来た。 2021/11/04
じいじ
87
吉村氏の力作『高熱隧道』『闇を裂く道』を読んだときに、骨太な凄い小説を読んだと思ったが、今作も負けず劣らず、否それ以上の力強さを感じました。10歳で船乗りを目指した彦蔵少年の波瀾万丈の生涯を綴った、手に汗を握る傑作大作です。またこの作品は、幕末の鎖国時代に未知のアメリカから見た日本を知ることが出来る、貴重な一面も備えた物語です。当初の想像をはるかに超えたスケールの一冊でした。できることなら、もう一度読み返したいが…。2023/07/02
大阪魂
75
漂流してアメリカ国籍とった彦蔵目線で幕末維新の日米情勢勉強させてもろた!日本の船って沿岸向けにできてて嵐きたらほんますぐ漂流してしもてたんやね…それを救うのが紡績機の油をとりに捕鯨に押し寄せてたアメリカの捕鯨船!救われた人らの中まだ15才で英語をすぐ覚え真面目に働いた彦蔵、アメリカ人の偉いさんたちと出会い愛されリンカーンとか3人の大統領とも面会、通訳として日本に戻ることに!でも攘夷天誅の嵐に不安感じて日米を行き来、伊藤博文とかとも仲良くしてたんやけど故郷にも根づけず最後は傷心のまま…激動の人生すごかった…2024/07/15
shizuka
71
彦蔵の体験が手に取るように分かる!真に臨場感のある物語。彦蔵だけ追っかけるのも難儀なことだろうに、彦蔵がアメリカ船に救出され、日本へ帰る手だてを求め清国へ行ったりする激動の時期、漂流者がわんさか。彦蔵と関わりのあった漂流者、一人一人をないがしろにせず調べ登場させているのには誠に感服する。幕末になると外海を外国船がうろうろしているので助かる漂流者も多く、日本の地を再び踏める者も多くなる。彦蔵にどっぷり嵌ると攘夷派が悪魔のように思えてしまう。なんて視野のせまい人たち!と。歴史はイキモノ。見方によって変化する。2016/11/17