出版社内容情報
二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習“お船様”が招いた、悪夢のような災厄を描く、異色の長編小説。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
602
読み終わるのが惜しかった。農作物といえばヒエ・アワくらいしか作れない、崖っぷちにへばりつくような寒漁村に暮らす人びと。彼らには他村民には言えない秘密があった…。これでもか、これでもかと読者をも痛めつける彼らの貧困。ある意味読者に投げっぱなラスト。吉村さんの「ものすごい」作品をまた読んでしまった。読後改めて表紙を見てみると、村人の抱く赤い着物がもの哀しい。2022/04/24
W-G
506
気になっていた吉村昭氏。因習の村系の作品。頁数の少なさからは想像つかない濃さが充満している。淡々と事務的な文体で土俗的な世界が描写されており、それゆえに、村人にとってはあくまで"日常"に過ぎない事が強調されて伝わってくる。時代背景が文中では不明なので、この後で検索してみようと思う。それくらい興味をひかれる。"お船様"の発想というか、昔の日本の因習等は、思考の飛び方が凄いものがある。後、解説が最悪。何事も無かったように物語の粗筋を詳細に説明しきっている。『生麦事件』と『羆嵐』も近い内に読んでみたい。2016/10/23
青乃108号
315
この物語、容赦ない。海沿いの寂れた村落。年季奉公に出さねば家族が飢えてしまう厳しい環境下での生活が、春夏秋冬それぞれ克明に3年分、繰り返し繰り返しまた繰り返し描かれる。何度も何度も。この辺り【そして同様に3年経った】とかの記述で省略はされない。当事者も辛かろうが読む方も辛い。その分、【お舟様】が漂着し豊富な米などの積み荷にありつけた歓喜はストレートに伝わってくるし、船員の生き残りを無情にも打ち殺してしまう狂気にも納得できてしまう。しかしその後村全体をみまう悲劇はあまりに残酷で、この物語、容赦ない。 2022/05/24
JKD
260
岬の断崖で閉ざされた地勢により孤立化した貧村の過酷な不幸の物語。海や山で採れるわずかな食糧で飢えを凌がなければ生きていけないこの村唯一の望みはお船様。全てはお船様の恵みを得るために。生きるためとはいえ悪事を正当化するととんでもないしっぺ返しを受ける。村全体がタチの悪い宗教団体のようで素直に受け止められない強烈な不気味さ。何とも言えない緊張感を味わいました。2021/03/06
たっくん
259
ある浜辺の貧しい寒村。古くからある村の仕来り、村で消費し隣村で穀物と交換するための浜での塩焼き・・それは「お舟様」、村の前面に広がる岩礁の多い海での破船を誘う村のしきたり。船主を殺し、船荷を奪う、お舟様の到来で飢えの恐怖から解き放され、二、三年は、年季奉公に身を売る者もなく暮らすことが出来る。ある年もお舟様が来た、ほとんど船荷の無い舟、乗り組んだ者は、何故か例外なく赤い着物、帯、足袋、そして赤い猿の面をつけていた・・村の風習「お船様」が招いたある悲劇、過酷な現実。重い、佐渡島の寒村の話らしい。2018/01/08
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