感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
115
短編6篇収録。「最後の特攻機」、「太陽を見たい」が特に印象深い。「最後の特攻機」は敗戦の日に沖縄へ特攻した宇垣纏中将を描く。宇垣中将は約二千機の特攻機を見送った。敗戦にあたり、自身も彼等の後を追うこととし、彗星艦爆十一機で最後の特攻を行った。自身の責任を感じ行動した宇垣。敗戦後も自己弁護を続けた将官と比較し評価される。だが特攻を選べば多数の部下も散華する。大西瀧治郎や阿南惟幾の様に自裁する方法もあった。散華した部下の家族の心中を思うと苦しい。「太陽」は壮絶な伊江島の攻防。ただただ圧倒される。読むべき作品。2022/02/24
モルク
109
戦記にはなかなか扱われない空白の部分をフィーチャリングした6つの短編集。「艦首切断」と「顛覆」は台風下の演習中に怒った事故、攻撃力を重視した設計によるものだったのか…とても興味深い内容である。6編の中では唯一のフィクション「敵前逃亡」は鉄血勤皇隊員であった沖縄の中三の少年兵が、米軍の捕虜となるが、米兵を欺いて戻ってきた時「生きて虜囚の辱しめを受けるな」に違反したこと敵前逃亡の罪で斬首となる。その最期の瞬間、落ちた首と共に残っている意識が生々しい。2021/06/12
キムチ
66
4回目。艦首切断は中身が諳んじられるほどに。脳裏に刻まれるその場面、おバカな私はいつもワンパターンの感慨。そこに居ない筆者、なぜにかくもリアルなペンが走るのか。顚覆もやや類似状況。敵前逃亡と軍艦・・は少年が当事者。斬首され土中に転がる時は等身大の少年だったかと涙が出る。天皇勅語以後の最期の特攻、宇垣。朧気乍ら死にざまに触れる想い。いつも歴史で思う事~現時点で安易解釈の断定は戦争実体をぼやかすことに他ならぬという最重要ポイント・・合掌2022/08/01
mondo
64
読み終えて「空白の戦記」の題名の意味が分かった。「艦首切断」「顛覆」は、いずれも、陸軍の死の行軍とも言える八甲田山クラスの大スキャンダルで、映画「ポセイドンアドベンチャー」を彷彿させるようなドラマチックな展開だった。きっと、映画にしてもヒットしたに違いない。「敵前逃亡」はフィクションだが、最期の肉声「頭部が穴の中をゆっくりと落下し、湿り気をおびた冷たい土にふれるのが感じられた」という悍ましい言葉が、今も鮮烈に耳に残るようだ。「軍艦と少年」も感動的な記録小説だった。また、「戦艦武蔵」を読み返したいと思った。2021/05/27
金吾
52
○戦争に関する短編集です。しっかりした調査に基づいた吉村さんの真に迫った文章は話の臨場感を増していきました。悲しい話が多いですがその中でも「敵前逃亡」は印象的です。「艦首切断」「顛覆」が良かったです。2022/08/30