内容説明
高名な作家で、自分の仕事に没頭している父、悪意はないが冷たい継母、夫婦仲もよくはなく、経済状態もよくない。そんな家庭の中で十七歳のげんは三つ違いの弟に、母親のようないたわりをしめしているが、弟はまもなくくずれた毎日をおくるようになり、結核にかかってしまう。事実をふまえて、不良少年とよばれ若くして亡くなった弟への深い愛惜の情をこめた看病と終焉の記録。
著者等紹介
幸田文[コウダアヤ]
1904‐1990。東京生れ。幸田露伴次女。1928(昭和3)年、清酒問屋に嫁ぐも、十年後に離婚、娘を連れて晩年の父のもとに帰る。露伴の没後、父を追憶する文章を続けて発表、たちまち注目されるところとなり、’54年の『黒い裾』により読売文学賞を受賞。’56年の『流れる』は新潮社文学賞、日本芸術院賞の両賞を得た。他の作品に『闘』(女流文学賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優希
111
バラバラな家族の中で、姉のげんが弟の碧郎へ注ぐ想いが胸に刺さります。母親のような愛情で弟を包み込むのげんに対し、碧郎は崩れた日々に身を落とし、やがて結核に犯されるのが辛いところですね。若くして逝くことになった弟への深い愛情を余すところ無く書き上げた名作だと思います。姉弟の悲しさに何とも言えない読後感を味わいました。2017/07/25
chimako
105
何とも言えず辛い読みものだった。前半は自分の心とは違う方へ向う弟 碧郎の様子が弟贔屓の姉の目を通して描かれる。子どもをかえりみない父となさぬ仲の冷たい継母。それはその二人だけが悪いのではなくどこでどう間違ったのかお互いの気持ちがてんでバラバラでやるせない。継母のネグレクトとも思える放置、それを見て見ぬふりの父。転げるように堕ちていく弟を姉として見捨てることは出来ない。その親子の気持ちは碧郎の結核の死の床でようよう重なりあう。姉にとって弟とは守るべき一番身近な異性。可愛くて愛おしい。今も昔も。2017/09/28
ykmmr (^_^)
93
中学生の時に、露伴に作家の娘がいる事・その娘も物書きと言うこと、そして…この作品を知る事となる。厳格なイメージがある父。その子として生きるのがどういう事か…。自分にも、仲良い弟がいる事もあり、この作品に興味を持った。当時、不治の病に悩む弟も勿論不憫だが、一番苦労しているのは、『げん』その人と誰もが思うと思う。退廃的な家族を持ち、振り回されながら、淡々と自分の行うべき事を行い、弟の治癒を信じて親以上に看病し、自分の人生も投げ出さないとならない。そんな境遇に負けないげんが憂いになる。2021/09/04
ユー
85
前半部分の姉から見た「おとうと」への思い、後半部分の姉から見た「おとうと」への想い。姉弟どちらも不器用な所が沢山ありますが、それを「是」とする位の綺麗な文章描写。最初から最後まで「血」の繋がりが強く感じ取る事が出来ました。2018/11/13
佐々陽太朗(K.Tsubota)
82
高名な作家の父、リウマチを患う継母、十五歳の弟を家族に持つ十七歳のげん。家族それぞれが心に持つ鬱屈、微妙な心のあやを丹念に描ききっている。自伝的小説のようですが味わい深い文章です。それにしても、私はこの弟が苦手です。親に対するわだかまりや周りからの誤解を自分の中で始末できず投げやりになったり、心得違いの行動を繰り返す。おそらく周りの愛情を求めて満たされない心の表れなのでしょう。しかし私はそのような状況にあっても、誇り高く孤高を貫こうとあがく男であって欲しい。たとえ未だ十五の男であっても。厳しいようですが。2012/06/20