感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
64
釧路を思わせる町の広大な敷地に住む敦子と父は、父の事業の行き詰まりのせいで家を手放すことになる。買い取りを担当する不動産業者の園部とその夫人。園部夫人は父の愛人である。この四人を巡って物語は静かに進行する。売却の日が迫るにつれ園部と敦子の関係は進み、家ばかりでなく事業をも手放す父の憂愁は深まっていく。敦子の情念をぶつけられる夫人の諦念。やがて悲劇が起きる。生家の落魄を目にし札幌で一人暮らしを始めた敦子だが彼女の未来に漂う虚無にはなぜか明るさが感じられる。園部を残してホテルの部屋を出るラストにも暗さはない。2021/10/15
Smileえっちゃん
55
古本処分の為の再読です。挽歌が良かったので読んだ記憶があります。あの頃は園部がカッコよく見えたんです。再読して、園部がわからない。好きな人がいるのを承知で結婚し、その後ず~っと続いていることを黙認している神経。夫人の浮気相手の娘を誘惑し、関係が続く。主人公の敦子のわがままな態度や狡さが目につき苛々します。復讐のための遊びなのか・・・それとも、心が冷め切ってしまっているのか…最後は父を失踪(死)に追い込む。誰にも共感出来なかった。読了までが長く感じた。2020/04/13
グラスホッパー
5
苦しい恋愛が出てくるけど、全体にこの世の虚無を感じる内容だ。人を好きになる瞬間が見事に表されていて、心に残る。昭和30年の新聞小説。10年に一回の割合で読みたくなる表紙が取れそうな古い文庫本を、今回は、機内で一気読み。2019/12/10
あ げ こ
5
失ってしまったものたちの記憶を、自分たちの共有すべき傷として、ただ粛然と抱き続ける父と娘。目前に迫り来る淪落が運ぶ出会いは、彼等の命運を虚無へと導くもの。互いを愛するが故に、平穏な今の終わりを恐れ、顔を背け合う父娘の弱さが、哀しくも愛おしい。父の身を憂い、恋人を想い、不安気に揺れ動く女性の心。身勝手な愛の醜さや、高まる激情を描いていても、言葉は品を失わず、雪のように白く、厳しく、端正なまま。危うげに保たれた均衡が破られた先の、不穏な静けさ。寂寞を一人進む主人公の姿に覚える哀感の苦さ、僅かな潔さが印象深い。2014/05/10
学級ぶんこ
0
手元本。わかるんですよこの主人公の心の動き。誰しもが本来隠して生きている暗部をさらけ出して書いている小説だということもとてもよくわかる。だけどこの主人公、鼻につく。自分だって同じ立場になれば同じように考えてずるくもなり駆け引きなんかもしてみたり、のくせ悲劇のヒロインになってみたりもすると思う。思うんだけど苛々する。そのせいか美しい文章がやけにまどろっこしく感じるのだ。きれいな言葉選んだってだめだよ、と思ってしまう。そういう時代だったんだなって客観的になれなかったのは、ある意味物語に入り込んだということか。2015/09/14