内容説明
銀座の一流画廊に画を売込みに来た女流新人画家降田良子。この斬新な手法と構成が有名なコレクシターの眼にとまり、良子の作品展は画壇の注目をあつめる。しかし、彼女の風変りな制作態度に秘密を感じたライバル画廊の支配人小池は、真相を求めて良子の郷里福島へと向う。画商の商算と美術評論家の欺瞞が交錯する画壇に二重三重にはりめぐらされた策謀を暴くサスペンス長編。
著者等紹介
松本清張[マツモトセイチョウ]
1909‐1992。福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生れ。給仕、印刷工など種々の職を経て朝日新聞西部本社に入社。41歳で懸賞小説に応募、入選した『西郷札』で直木賞候補となり、1953(昭和28)年、『或る「小倉日記」伝』で芥川賞受賞。’58年の『点と線』は推理小説界に“社会派”の新風を生む。生涯を通じて旺盛な創作活動を展開し、その守備範囲は古代から現代まで多岐に亘った(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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koji
34
清張先生は美術界を扱った作品も息の長い作品が多く、最近も「奈良県の版画工房経営者が大阪府の元画商から依頼を受け、平山郁夫ら大家の作品を偽造した」事件を扱った日経新聞コラム(春秋)で「真贋の森」が引用されています。本作も、新進気鋭の女流画家の謎を巡るミステリーですが、画家、画廊、コレクター、美術評論家らの持ちつ持たれつの人間模様に加えて、戦争の傷痕、地方の風景、サスペンス、謎解き等が散りばめられた清張先生らしいサービス精神旺盛な作品です。一寸あっけないラストも、実は皮肉がきいていて、とても楽しめる一編でした2021/11/14
エドワード
33
画廊は松本清張の描く銀座のもう一つの顔。光彩堂画廊が名画家の絵にオマケでつけた絵がコレクターの目にとまり、作者―降田良子は瞬く間に出世していく。しかし彼女は、注文を受け付けず、制作現場を一切見せない、風変りな画家であった。叢雲洞画廊の小池は、彼女の郷里に住む傷痍軍人の存在を探り出し、良子の絵画制作の秘密を探ろうとする。画家と画廊、評論家、コレクター、互いの思惑が交差する美術界の裏面。「彼女の絵には魂がない。」風呂敷画商の言葉が印象的だ。魂のない絵画の制作トリックは?下宿に電話のない時代の郷愁もまた一興。2017/12/15
chiru
33
手元に本がないので、簡単なことしか書けませんが、松本清張作品の中でも珍しい作品だけど、やっぱり清張さんらしい。それは真実探究が根底にあるからだと思う。わたしが清張作品を読んで、他の著者の推理小説と違うなって思うのは、”謎が解明されても人生は続く”っていうことを、知らず知らずに意識してしまうところです。★42017/11/12
康功
31
百貨店の外商と言う職業をしている私には、身近な話題である画商同士の駆け引きを見事なまでに描いている。業界での常識を調査し尽くした上でのストーリー展開に感心した。最後まで殺人が行われることもない展開だが、同族企業である事の多い画商の悩みや、若手作家発掘の難しさが見事に表現されていた。最後の結末は、なるほどと納得させられたが、殺人未遂をするところが、フィクションと言う感じである。現代では生き残りの難しい画商の生の姿を異業種の人びとに少しでも理解させる助けとなる作品だとすれば、秀作と言えると思った。2017/08/03
Akihiro Nishio
29
久しぶりの松本清張。9冊目。奇妙な絵を描く新人女性画家を、一方は売り出すためのストーリー作りとして、一方は商売敵を蹴落とすために、2つの有名画廊が彼女の絵のルーツを調べる。どこまで調べてもルーツらしきものは見当たらず、やはり彼女は天才だったのか、というところからの大逆転。更に最後の30ページでの再逆転も熱い。画廊と美術評論家、新聞社、収集家らが、どのように動いて、絵が人気を博していくのかという過程が詳細に描かれているところが面白い。今なら良くあるアウトサイダーアートとして特に注目を浴びないでしょう。2020/05/29