出版社内容情報
松本清張 生誕100年記念復刊第3弾。巨人と見紛うほどに膨張した死体に隠された驚愕のトリックとは!?
大洗海岸に巨人と見紛うほどに膨張した死体が流れ着いた。警察は苦心の末に、海外旅行中の県議会議員と特定したが、その腐爛状態には驚きのトリックが隠されていた(表題作)。実力はありながら、地味な風貌が災いし、どの組織でも決してトップの椅子にはつけない元銀行副頭取。男が三十一歳も若いバーのマダムと再婚したとき、悲劇が幕を開ける「礼遇の資格」など傑作短編五編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きょちょ
23
小品5作。 「礼遇の資格」は、単なる嫉妬の殺人で終わらず、死体をどこに持っていったかに一工夫あり。 「内なる線影」は、殺人の仕方に一工夫。 「理外の理」は、作中作が面白い。 「東経百三十九度線」は、清張得意の歴史観を盛り込む。 表題作は、潮の流れの工夫。 とまあ、一所懸命褒めているつもりだが、実は清張作品の中でも、退屈な5作なんだよなぁ・・・。 ★2019/11/21
シュラフ
22
短編集。「巨人の磯」は大洗の大串の巨人伝説がモチーフとなっている。大洗海岸に巨人かと思うほどに膨張した溺死体が漂着する。死後に体内の臓器から発生したガスで2~3倍にも膨れ上がるものらしい。その地には遠い昔に巨大な男が住んでいたという巨人伝説がある。もしかしたら巨人伝説とは大昔に漂着した死体を見た古代人の恐怖からできあがったものという推察もうなづける。たんなる殺人事件の話なのであるが、知の巨人たる松本清張さんの手にかかると出来栄えのよい紀行文学のような面白みのある作品へと仕上がる。2015/04/11
しゅんしゅん
12
5編の短編集。娯楽の読み物として楽しめるばかりではなく、本格的な古代史を敷いた上で作品が構築されていて重厚な読み応えがある。凶器であったりトリックであったり、想像もつかないような展開で魅せてくれるあたりは流石である。完全犯罪として成立して、よもやバレることなどないだろうと高を括っていても、どこで足を着くのかわからないところもすごい。唐突に突拍子もない異変を出現させるわけでなく、練りに練ったストーリーで場を徐々にあたためておいてから、鮮やかに謎を解明していく。類まれな発想力と緻密な描写でワクワクして読めた。2021/11/04
Nozomi Masuko
10
松本清張の70年代後半に書かれた5編が収録された短編集。表題作をはじめ、納められている作品のいくつかが「20以上離れた若妻をもらい、老いゆく主人は騙し騙され」みたいな要素が満載で、これもまた女の底意地の汚さを感じる内容だった。そこがまたいいんだよなー。笑。2015/09/09
koji
9
偶々図書館の棚で目にして、すぐに借りました。マイブームである松本清張ですが、短編は余り読んでいません。でもこの5編は嵌りました。「巨人の磯」と「東経一三九度線」は古代史、「礼遇の資格」は凶器、「内なる線影」はトリック、「理外の理」は心理サスペンスに主題があります。どれも発想豊かな一級品で、特に文章は流麗かつ緻密、さらに大胆です。特に注目したいのは、タイトルの秀逸さ。今のミステリーでは適わないでしょう。さて、あえて1編選べば「理外の理」。伏線がみごとで背筋が凍るラスト。やはり清張は一級のストーリーテラーです2015/05/12