出版社内容情報
時代小説の第1集。西南戦争の際に薩軍が発行した軍票をもとに一攫千金を夢見た男とその破滅を描く「西郷札」。江藤新平の末路を実録的に描いて、同じ権力機構内にいるものの軋轢、対照的な勝敗を浮びあがらせた「梟示抄」。幕末に、大名、家老、軽輩の子として同じ日に生れた三人の子供が動乱の時代に如何なる運命を辿ったかを追及した「啾々吟」。異色の時代小説全12編を収める。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きょちょ
27
清張の処女作で直木賞候補になった「西郷札」を含む、江戸・明治物短篇12作。 「西郷札」はすぐ筋が分かってしまうものの、これを含めすべての作品で彼得意の「人間の業」がうまく描かれている。 将軍の交代、維新、西南戦争、自由民権運動など、変化の波に直接さらわれた人間の「悲哀」も描いている。 山田風太郎もこの時期の人達の「悲哀」を描いているが、二人を比べると、風太郎の方がどちらかと言うと明るい文体で、清張は暗い。 私はどちらも好きだ。 ★★★★2017/08/28
シュラフ
22
西南戦争の際に薩軍が発行した軍票を「西郷札」というらしい。明治時代の裏面史ともいうべきであり、はじめて知った話である。当然ながら薩摩が破れたことでこの西郷札は通用しなくなる。だが、当時 廃藩置県の後に 旧の藩札を政府が一定額にて買い上げた実績があるということで、この西郷札も同様になるのではと男たちの一攫千金の夢物語がはじまる。短編作品ではあるが、松本清張さんらしく細かい部分まで史実による裏付けがなされており、さすがは清張さんといった読後感。2014/12/20
shiozy
18
さいごうふだ、と読んだ君は即刻退場。さいごうさつ、と読む。おさつの話である。西郷が最後の決戦に及ぶとき、戦費が足りない。そこで「軍票」を発行した。何の信用もないお札である。この歴史を発掘した失意の人の執念のお話である。高校生時代に読んだ記憶があるのだが、やはり読み込めてなかった自分がいる。2015/03/23
fumikaze
17
清く正しく生きていても、またハンデを抱えながら頑張り続けても最後まで不遇な生涯で終わる人々がいる。むしろそれが現実なのかもしれない。そんな不遇な人生を生きた人々の姿を書いた暗くて重い短編集(時代物)。しかし、それでいて後味は悪くないし最後まで引き付けられてしまう。「噂始末」が印象に残った。2019/11/06
Galilei
14
西郷札で思い浮かべるのが昭和の軍票。こちらはアジア各地で紙切れとなった。共通するのは、どちらもやむにやまれぬ敗者のあがき。それにつけても、本書は西郷を英雄視せず、その欠点もズバリついた秀作だ。
-
- 和書
- ブレインメンタル強化大全