内容説明
朝倉先生留任運動の責任を一身に背負った形で郷里の中学を退学した次郎は、先生の後を追って上京した。軍部台頭の世相の下で、自由主義的な青年塾を開いた朝倉先生の助手をつとめながら、次郎は自己を見つめなおそうとする。が、兄の婚約者・道江への断ち切れぬ想い、そして、2・26事件の勃発と、迷いは深まる一方だった。一人の青年の精神的成長を描く大河小説の最終巻。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっぴー
48
中学を辞め、東京で個人塾を開いた朝倉先生の助手として働くことになった次郎。塾が掲げる友愛精神と潔く死ぬことができる人材を良しとする国の精神が互いにぶつかり、存続が危ぶまれます…何事も外から干渉を受けずにやっていくことは難しいというか、不可能なんですね…現代でも新しい法律が施行されたら国民であるかぎり従わなければなりません。いくら首を傾げるようなルールであっても、然り。軍部に睨まれた次郎達がこれからどう切り抜けるかが楽しみだったのですが、ここで終了となります。素晴らしい作品に限って未完なのは何故でしょうか。2016/07/10
ももたろう
37
読書好きの人であれば、誰しも「宝物」だと思えるような一冊があると思う。それは、それぞれの人生経験だとか、価値観とか、興味関心とか、色んな要素に左右されると思うけど、私にとって唯一無二の宝物はこの本。この本のおかげで、どれだけ勇気づけられ、どれだけ逆境に耐える力をもらえ、どれだけ人生の喜びを教えてもらったか計り知れない。古今東西、まだまだ読んでない本が数多あるけど、私の中ではこの本がナンバーワン。2017/07/24
aponchan
21
最終巻、悩みに悩んだ次郎を主人公として、心苦しさを感じながら読了。戦争に向かう時勢とその中でどの様な教育がなされたのかを読み 、親としても色々考えさせられる。第二次世界大戦で大日本帝国が滅び、戦後70年以上経過して現状はどうか、時勢に流されていないか、コロナ禍で考えないといけないかもしれないと思った。2022/01/03
紅花
21
民主主義、自由と平等が当たり前の世の中に生まれてきた。故にその本質が蔑ろにされ、本質を見抜く努力を忘れてしまっている、今の自分に反省した。朝倉先生が友愛塾で求めた本来民主主義や自由に伴うべき要素は、どれも容易い事ではない。私たちは今、最も難しい社会構造の中で生きているのかもしれない。全てを読み終わって最も驚きだったのは、次郎物語の構想から出版までに30年、第一部は昭和16年、5部の完結が昭和24年。作者には時代が見えていたのだろうか、という浅はかな考えを消しながら、作者の苦悩を思う。2015/09/06
まーみーよー
20
下巻は第五部。未完で本作終了なのを残念に思う。朝倉先生の助手として友愛塾の仕事をする青年期の次郎が描かれる。青年らしい高い志と自己嫌悪、自分より優れた大河に対する引け目、時江への恋情、時勢に対する反抗心が細やかに描かれていている。2.26事件の勃発から友愛塾を休塾せざるを得ない状況になり、次郎の人生は一つの節目を迎える。その後の次郎と出会いたかった。「真の勝利は、相手を憎み、がむしゃらに相手に組みつくだけでは、決して得られるものではない。自分みずからを充実させることのみが、それを決定的にするのだ。」2020/09/30