感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
61
第15回(1981年)吉川英治文学賞受賞作品。清らかな恋愛小説である。魂の再生小説と言い換えても よく、純真なる魂に触れて、再生する男の物語。 著者船山馨の余命半年を医師から宣告された人生とも 重なり、作者の心境を思うと、心が痛い。船山馨はこの小説の新聞連載を終えたその翌年他界したそうであるが、文章も美しく、死生観のようなものも垣間見れる良書である。
あなた
5
太宰が情死して、ぽっかり空いた朝日新聞の連載のあとがまを受け継いだのが船山だった。実は、平林たい子の予定が、逃げたんである。で、船山は、太宰へのオマージュとともにドストエフスキーのさまざまなテクストを太宰や実存主義と溶解させあいながら、焼け野原となり荒廃した東京を亡霊のように歩きながら、それでも己の存在を「ジ・エンド」にたくすというとんでもない連載小説を書いてのけた。そこにはスタヴローギンもいれば、マルメラードフもいる。マルメラードフは、岩でも崩れ落ちるようにソーニャに恋をする。成就しようもない卑屈な恋だ2009/08/03
讃壽鐵朗
4
聖女のごとき存在はあり得ない話だが、主人公の社長の心情、行動には興味があった。だがそれも単に昭和の匂いが漂っていることだけかもしれない。2014/11/09
y_e_d
1
作者が余命半年を宣告された晩年に書かれた遺作。船山作品の最後にこれを読むと決めていた。作中の節子のような、表と内の落差のある聖女が本当にいるとは信じ難いが、修介の自らの死を受け入れるに至るまでの徐々に変化する心模様は分かるような気がする。端正で上品で染み入るような筆致はどの作品でも思わず感嘆してしまうもので、節子に感謝を囁く最終章は釘付けになってしまった。昭和の作家の実力を思い知る。今年読んだ中で、一番心動かされる作家です。2017/12/16
Pure
1
三十数年ぶりに再読。吉川英治文学賞受賞作ですがとうに絶版。何とかBOOK・OFFにて入手出来ました。今読むと確かに古いですが、船山馨自身余命宣告を受けた状況下で執筆された作品。同様の状況下にある、主人公の言葉に真実味があります。娼婦にして淑女、そんな節子にすがる死を眼前にした主人公の物の見方に説得力があります。節子の幸せを願わずには居られない読後感でした。吉永小百合と小林圭樹のドラマをもう一度見たくなりました。ぜひ、復刊して欲しい本の一つです。2013/11/30