内容説明
音楽にとりつかれた祖父と、素数にとりつかれた父、とびぬけて大きなからだをもつぼくとの慎ましい三人暮らし。ある真夏の夜、ひとりぼっちで目覚めたぼくは、とん、たたん、とん、という不思議な音を聞く。麦ふみクーツェの、足音だった。―音楽家をめざす少年の身にふりかかる人生のでたらめな悲喜劇。悲しみのなか鳴り響く、圧倒的祝福の音楽。坪田譲治文学賞受賞の傑作長篇。
著者等紹介
いしいしんじ[イシイシンジ]
1966(昭和41)年大阪生れ。京都大学文学部仏文学科卒。2000(平成12)年、初の長篇小説『ぶらんこ乗り』を発表。’03年、『麦ふみクーツェ』で坪田譲治文学賞受賞。’04年、『プラネタリウムのふたご』が三島賞候補作に
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感想・レビュー
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seacalf
81
童話のようなわかりやすい平易な言葉遣いで優しい語り口ながら、細部にまでものすごく目が行き届いた文章。『読む』という行為そのものの喜びを改めて感じさせてくれる稀な作家さんだ。どこかわからない街での、不思議なモチーフをふんだんに登場させたこの不思議なストーリーは、どこか真理をついているようなお話。全体的に物悲しさが少々漂うが、主人公をはじめとして用務員さんや郵便局長の妹さん、ちょうちょおじさんやチェロ弾きの先生などへんてこだけど愛すべき人物や奇妙なエピソードが沢山登場するから、忘れられない大好きになる一冊。2018/05/23
ずっきん
77
素数に取り憑かれた父と音楽に妥協のない祖父。やたらデカいばかりで心臓が弱い僕。これは童話か、それともマジックリアリズムなのか。児童書のような語りにして、隅々まで心配りされた文章。読み心地は控えめに言って極上である。数々の印象的なエピソードが収束していくさまも見事で、ルイス・サッカーの『HOLES』を連想させる。なおかつ、なんといっても、とても、あたたかい。いやもう、よかった。上司のお薦め本なんだけど、自分じゃ絶対選んでそうにないもんな。本当に出会えてよかった。色が見え、音が聴こえてくる小説にハズレ無し。2022/08/13
(C17H26O4)
73
ねこ 音楽 素数 恐竜 ねずみ 不協和音 狂気 匂い 声 色 変な人 調整 調和 とん、たたん、とん にゃあ!2022/05/13
Rin
73
とん、たたん、ずっとずっと麦踏みの音が響いている。その音を聴きながら成長していくのは、猫よりも猫の鳴き声が上手なねこ。ねこはとっても背が高いけど、心臓は弱い。ねこの目を通して、理不尽な大人や不思議な出来事、不幸で悲しくてどうしようもないこと。たくさんのことを経験できる。そして、いつだって麦踏みの音と、音楽がある。ねこを取り巻くへんてこな人々。でも誰だってへんてこで、でも誰かと繋がっているし、繋がっていたい。そして音楽は、演奏は繋がることができる素敵な手段。それを思い出させてくれた不思議でへんてこな物語。2016/12/16
レアル
65
大人の童話っぽいお話で宮沢賢治を彷彿させる。淡々とした中に温かみを感じる文章で、この物語には実に様々な人物が登場する。その様々な登場人物には当然其々の人生が詰まっていて、その中で主人公「ぼく」が成長していく。音楽にとりつかれた祖父、素数が気になる数学を愛する父、そして猫の鳴き真似が得意なぼくを中心に繰り広げられる、少し突飛で不思議な物語。とん、たたん、とん。物語を飛び出して私の頭の中でも聞こえてきそう。。2017/12/01