出版社内容情報
大岡 昇平[オオオカ ショウヘイ]
著・文・その他
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
中玉ケビン砂糖
167
#読了 20141208を再読。 昔の読書勘を取り戻したくて。「乾いた明晰さをもつ文体を用い、孤独という真空状態における人間のエゴティスムを凝視した点で、いわゆる戦争小説とは根本的に異なる作品である」と説明されている。確かに小説というよりかは体験記で、実存哲学のように深い思索の中にひきこもっていくようなきらいあり。ただ戦後日本文学における最重要作の一つとして往々に挙げられる『野火』よりも、私は『俘虜記』のほうが断然好きである(「好き」の語弊はともかく。「論ぜよ」とか言われたら話は別になってくるが)。2025/02/17
中玉ケビン砂糖
81
、「文学的価値」のあーだこーだは抜きにして、「野火」よりも「レイテ戦記」よりも断然この本のファンになった、偶然不発に終わった自決用の手榴弾、一生忘れられないチョコレートの味、収容所でのすったもんだ、あらゆることに新鮮な驚き、何かの見えざる力が作家大岡昇平を生み出したのだと思わずにはいわれない、、、2014/12/08
nakanaka
74
戦争小説というより記録という方が相応しいような作品で面白いという感想はなかったですね。フィリピンのミンドロ島で俘虜となった作者の体験記で当時のことや俘虜のことについてほとんど知識のない私にとっては勉強になりました。戦時中の日本とは対照的に、作者の大岡さんがいた収容所はある程度の自由や十分すぎる食事や物が確保されていて俘虜たちは堕落しきっていたということに驚きました。また収容所内での飲酒、喫煙、演芸や読み物などの娯楽があったことも印象的でした。戦争の悲惨さを違った形で知ることのできる作品でした。2017/12/12
Shoji
72
日本国民が飢えに苦しみ、理不尽な戦火と闘っていた時、俘虜となった兵はどのような生活をしていたのであろうか。 「俘虜となればきわめて残忍な扱いを受ける」、「生きて虜因の辱めを受けず」と叩き込まれ、自殺が美徳とされた時代である。 俘虜は、衣類、食糧、タバコ、日用品は充分与えられ、勤労も奴隷のような役務ではない。 すると、人間とは業腹なものだ。 愛国心に代って怠惰な心が生まれる、物欲が出てくる、争いが発生する。 そんな人間模様を冷静に洞察し叙述している。 これもまた、戦争の一面なのだとつくづく思った。2016/09/22
Gotoran
58
太平洋戦争末期、比・ミンドロ島で従軍、病兵として山中に取り残され、捕虜となり、約1年間収容所生活を送った著者の体験がベース。第1部として、「病兵として部隊行動から取り残されて俘虜になるまで」、次に、第2部として、「俘虜収容所での独特な集団行動の記録」、最後に、第3部として、「命が保証された収容所での人間の堕落、エゴイズム、 憐憫、自尊心、阿諛」ーー俘虜となった日本軍兵士たちの歪んだ心理状態が、描写されている。戦争の最中に起きた自己の心情や行動を客観的かつ緻密に分析している著者の冷静さが秀逸。2023/05/31