内容説明
死霊が彷徨い、腐臭漂う岡山の寒村。村で一番の分限者の家に生れながら、牛蛙と綽名されるほど醜いふみ枝は、母シヲの淫蕩な美しさを憎悪する。しかしふみ枝の娘は、シヲに生き写しの、禍々しいまでの美貌を備えていた。美女と醜女が一代交替で生れるのは、禁忌を犯した罰か、土俗の死霊の祟りなのか―。呪われた家系を生きた六代の女たち、愛欲と怨念にまみれた、百年の因果の物語。
著者等紹介
岩井志麻子[イワイシマコ]
1964(昭和39)年、岡山生れ。少女小説家としてデビュー後、’99(平成11)年「ぼっけえ、きょうてえ」で日本ホラー小説大賞受賞。翌年、作品集『ぼっけえ、きょうてえ』で山本周五郎賞受賞。2002年『チャイ・コイ』で婦人公論文芸賞、『自由戀愛』で島清恋愛文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かぷち
52
岡山の北の果ての寒村に狂い咲く妖艶な女たち。目まぐるしく過ぎ去る時代の中で、じっとりと育まれる情念。断ち切れない因果の鎖。まさにべっぴんぢごく。岩井志麻子さんの描く「別嬪」は本当に美しく狂気を感じた。官能的なそれでいて不気味な世界観に岡山弁が絶妙にマッチしている。何を書いたら良いか分からない、これ程感想を書きづらい本も初めて。2023/07/11
メタボン
44
☆☆☆ 美女と醜女が交互に出生するという秀逸な設定と、岡山の土俗性を背景に、岩井志麻子の本領を発揮した作品。その妖しさに惹き込まれるものの、惜しいのは、女六代に渡る大河作品であるのに、その設定の説明だけに終始しているということ。腰を入れて取り組めば、一大幻想大河小説にもなりえた主題だと思う。2017/07/19
dr2006
44
やばい、強烈だった。 美も忌避も背徳もその時代によって違うだろうが、現代から見て100年程度の社会や環境の補正力など高が知れている。明治から平成まで、血筋を伝う遺伝子のなせる宿業がこの物語りの主人公だ。容姿として表面に現れてくる「別嬪」が携えている因果からは決して逃れられない。その因果とは何か? 始めて読んだ岩井志麻子さん、異才と異臭を放つ世界観は容赦なくユニークであり、濃さが癖になるかもしれない。2014/11/13
カムイ
41
とても怖い!因果だ100年の女一族の婬美な世界の物語、岡山の土地のなせる技なのかも、岩井志麻子がつぐむ悪夢を堪能させてもらった、美人は恐ろしい!2020/10/26
だいだい(橙)
38
シンプルに面白かった。岩井志麻子さんについての予備知識がほとんどなく、エロおばさんという評判を読み終えてから知ったが、かえって偏見なく読み終えられたのが良かったかも。女系家族の明治から平成までを描いた話としては、昨年読んだ桜庭一樹の「赤朽葉家~」があるが、はるかにそれを凌駕している。岡山という土地柄、方言が現実感を持って迫ってくる。特に冬子の生まれるくだりから、シヲの出生の秘密への伏線の回収の仕方が秀逸だ。「足」と「乞食隠れ」というキーワードでグイグイ引っ張る。リズム感のある文章も素晴らしい。2021/01/09