内容説明
伊豆湯ケ島の小学校を終えた洪作は、ひとり三島の伯母の家に下宿して沼津の中学に通うことになった。洪作は幼時から軍医である父や家族と離れて育ち、どこかのんびりしたところのある自然児だったが、中学の自由な空気を知り、彼の成績はしだいに下がりはじめる。やがて洪作は、上級の不良がかった文学グループと交わるようになり、彼らの知恵や才気、放埒な行動に惹かれていく―。
著者等紹介
井上靖[イノウエヤスシ]
1907‐1991。旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手掛け、1949(昭和24)年「闘牛」で芥川賞を受賞。’51年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。「天平の甍」での芸術選奨(’57年)、「おろしや国酔夢譚」での日本文学大賞(’69年)、「孔子」での野間文芸賞(’89年)など受賞作多数。’76年文化勲章を受章した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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SJW
178
上巻は井上靖の沼津中学3年の時の自叙伝。自分が高校入学前の春休みに「しろばんば」を読んで、その後、高校1年生の夏休みにこの「夏草冬濤」を読んだことを思い出し、井上靖の少年時代に思いを馳せノスタルジーに浸った。当時は自分とは異なる環境で起こる日常の事が新鮮で引かれていったが、今読むと自分と比べて幼稚な主人公「洪作」の日常に驚く。今から考えると自分は洪作に比べて大人だったのかと意外な感想となった。でも洪作の成績が下がっていく物語に恐怖を感じ、この本を読んだことが勉強に打ち込んだきっかけにもなったことを(続く)2018/04/05
のっち♬
108
伯母の家から沼津の中学へ通う洪作は、自由な空気を知るにつれて次第に成績が落ちていく。『しろばんば』に続いて飾ることなく少年の成長を描いた自伝的小説。田舎から出てきた少年から見た地方都市の様子が生き生きと活写され、人物描写も精彩豊か。意気地なしな17歳の洪作や友人たちによる逸話が魅力的で、鞄を無くしたり、従姉妹から逃げたり、不良に頬を叩かれただけで運送屋に泣きついたりと、男の情けなさや不器用さを描くのが実に上手い。帰省編では冷遇する友人に物悲しさを覚えると共に、おぬい婆さんを褒める祖母に暖かいものを感じた。2020/12/24
遥かなる想い
93
しろばんばに続く井上靖の自伝的小説。作者の旧制中学校の青春。読んでいてなぜか楽しくなるのは良き時代への 憧れなのかもしれない・・大正の学生の方が大人に見えてのは なぜなのだろう。
まさみ
80
小学校時代優等生と言われた洪作が 沼津に移り住み また親元ではない所で中学校生活を送り始め 少しずつ大人になる心の変化や友人との付き合いがとても細かく描かれていたと思います。洪作が「しろばんば」時代に過ごした湯ヶ島に数年ぶりに帰省し 祖父母が暮らす上の家に行き 家が半分になってしまい洪作が心の中で悲しんでる表現や 自分と違い中学校に上がらずに地元で働く小学校時代の友人との会話が 大正時代の現実を感じさせられるところでもありました。2013/09/01
優希
51
著者の自伝的小説なのですね。中学に通うため家族と離れて育つ洪作。のんびりとした自然児の洪作がより自由になっていき、文学グループと関わりつつ成長していく様子が瑞々しいです。2023/02/18